成功するためには、 人生の土台を合理的に設計せよ

新刊『シンプルで合理的な人生設計』のまえがき「自由に生きるためには、人生の土台を合理的に設計せよ」を、出版社の許可を得て掲載します。本日発売で、多くの書店さんにはすでに並んでいると思います。見かけたら手に取ってみてください。

******************************************************************************************

本書では、もっともシンプルな成功法則を提案したい。それが「合理性」だ。とはいえ、「人生を合理的に生きなさい」などというバカげた話をするわけではない。そんなものは「マシン(機械)」の人生だ。

自由に生きるためには、人生の土台を合理的に設計せよ

というのが本書の主張だ。

私は20年前から、「自由とは哲学的・心理的な問題ではなく、自由に生きるための経済的な土台(インフラストラクチャー)をもっているかどうかで決まる」と述べてきた。これはいまでは、FI(経済的独立:Financial Independence)と呼ばれている。

前著『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社)はこれを拡張して、幸福の土台を「金融資本」「人的資本」「社会資本」という3つの資本(キャピタル)で説明した(図1)。

これが画期的(だと自分で思っている)のは、幸福を客観的に定義できることだ。3つの資本をすべてもっていると「幸福」、なにひとつもっていないと「不幸」で、すべてのひとがこのスペクトラム(連続体)のどこかに収まる。

大きな資産をもち、仕事で成功し、社会的な名声もあるのに、自分のことを「不幸」だと感じているひとはかなりの数いるだろう。しかしこれは、定義上「幸福」になる。その一方で、一文無しで仕事もなく、家族も友人もいない孤独な身の上なのに、自分のことを「幸福」だと思っているひともいるかもしれない。だがこの場合は、定義上「不幸」だ。

「そんなのおかしい」と思うかもしれないが、このようにして幸福を主観から切り離すことで、その土台を客観的に論じることができるようになる。本書では、この土台を「合理性」という枠組みからより詳しく見ていきたい。

合理性とは、「投入した資源(リソース)に対してより多くの利益(リターン)を得ること」と定義できる。100円を投じて100円しか返ってこない取引よりも、110円になる取引の方が合理的なことは誰でもわかるだろう。

ただし、こうした意味での論理的(経済的)合理性の役割は、それぞれの資本で異なっている。図1に「合理性」という補助線を引くと図2になる。

金融資本の活用は金融市場に資金を投じて利益を得ることで、ほぼ合理的意思決定理論(ファイナンス理論)で説明できる。「損をしたけどよい投資」というのは、原理的にありえない。

ただし例外もあって、その典型がマイホームだ。あとで詳しく説明するが、ファイナンス理論では、マイホームという「大きなレバレッジをかけた不動産投資」を正当化することは難しい。それにもかかわらず多くのひとがリスクをとってマイホームを購入するのは、それが(合理性では説明できない)“夢”だからだろう。

人的資本の活用は労働市場に個人の労働力を投じて利益を得ることだが、「単位時間当たりの収入が多い方がよい仕事」と一概にいうことはできない。仕事の選択には、やりがいや自己実現、社会的評価など、金銭以外の要素が大きく影響するからだ。

とはいえ、タダ働きでもみんなのためになることをしたいという、「やりがいがすべて」の理想論は早晩、破綻するだろう。人的資本の活用においても、半分、あるいはそれ以上は経済合理性で判断する必要がある。

社会資本は人的ネットワーク、すなわち「絆」や共同体への帰属意識(アイデンティティ)のことだ。わたしたちはごく自然に、愛情や友情を経済的な合理性とは切り離している。――セックスのあとにダイヤの指輪をプレゼントするのは愛情だが、一万円札を差し出すと買春になってしまう。

とはいえ、パートナーを選ぶときや、友人のうちの誰と関係を継続し、誰と縁を切るかを選択するときには、合理性の要素がまったくないわけではない。ネットワーク理論では、あなたはもっとも親しい友人5人の平均だとされる。相手のことをなにひとつ知らなくても、社会的な関係を見るだけでだいたいのことは判断できてしまうのだ。

本書のPart1は理論編で、「合理的な選択」とはどういうことかについて論じる。それを受けてPart2では、幸福の3つの資本を合理的に設計するにはどうすればいいかを具体的に考えてみたい。

舞台がしっかりしていれば、その上で演じる物語の選択肢は大きく広がるだろう。そんな“強靭な土台”をもっていることを、本書では「成功」と定義したい。

いったん人生の土台を合理的に設計すれば、そこでどのような人生の物語を紡いでいこうとあなたの自由だ。それがとんでもなく不合理なものであってもまったくかまわないし、それでもあなたは「成功者」なのだ。

『シンプルで合理的な人生設計』発売のお知らせ

2023年3月8日にダイヤモンド社より『シンプルで合理的な人生設計』が発売されます。大手書店には、早ければ今日の夕方から並びはじめると思います。 Amazonでも予約できます(電子書籍も同日発売です)。

「どうすれば成功できるか?」という問いには、すでに結論が出ています。多くの研究によって、社会的・経済的に成功するのは、男女を問わず、以下のような特性をもっているひとだということがわかっているからです。

  1. 高い知能
  2. 高い堅実性
  3. 高い外向性(ただし、内向的でも経済的には成功できる)
  4. 高い楽観性(低い神経症傾向)
  5. 高い共感力
  6. 高い同調性(みんなとうまくやっていくこと)
  7. 高い経験への開放性(新奇なものに関心をもつこと)
  8. 魅力的な外見(男の場合は高身長も)

問題は、性格や外見を思い通りに変えられないことです。政治家や芸能人、ベンチャー起業家の多くが高い外向性をもっているとしても、内向的なパーソナリティのひとに向かって、「もっと積極的な性格になれば成功できる」というアドバイスはなんの役にも立ちません。

行動遺伝学では、性格のおよそ半分は遺伝の影響で、成長につれて遺伝率は高くなり、成人してからは、パーソナリティはほとんど変わらないとされます。これが、世の中には多くの(多すぎる)成功法則があるにもかかわらず、「ぜんぜん役に立たない」という不満の声があふれている理由です。

成功法則には、「向き不向き」があります。成功者の自伝を読んで人生が変わるほどの影響を受けるのは、パーソナリティが似ているからです。まったくちがうキャラクターの成功者の話を聞いても、「そういうひともいるのか」と思うだけでしょう。

それでは、すべてのひとにとって役に立つ(汎用性のある)成功法則は存在しないのでしょうか。じつは、たったひとつだけあります。それが「合理性」です。

わたしたちが生きている(産業革命以降の)知識社会では、「論理的に思考すること」と、「それを言語によって伝えること」に、大きなアドバンテージが与えられています。それはすなわち、合理的に判断し、行動することで大きな優位性が得られるように社会が構成されているということです。

とはいえ、合理的に生きることはさほど難しいわけではなく、(ほとんど)すべてのひとにとって可能です。なぜなら、これまで多くの賢い先人たちが、合理性について徹底的に考えてきたからです。だとすれば、わたしたちはそうした「巨人」の肩に乗って、快適な人生を送ればいいだけです。

本書では、このような前提から、「シンプルで合理的な人生設計」について考えてみました。これは汎用性のある成功法則なので、あなたにもきっと役に立つはずです。

 

「闇バイト」に申し込むのはどういう若者なのか? 週刊プレイボーイ連載(554)

多額の現金がある家を特定し、SNSで集めた「闇バイト」を使って強奪する凶悪事件が全国で多発し、社会不安が高まっています。主犯と目された容疑者がフィリピンから強制送還されたことで全容の解明が待たれますが、ここでは末端の実行犯について考えてみましょう。

報道によると、彼らの多くは「日当100万円」などの投稿をSNSで見つけて連絡し、求めに応じて運転免許証などを送っていました。その後、強盗であることがわかって躊躇したものの、「家族に危害が加えられるのでやめられなかった」などと供述しているようです。共通するのは、犯罪行為を強要されたとき警察に相談するなど他の選択肢を考えることなく、「しかたない」と受け入れてしまっていることです。

精神科医の宮口幸治さんは、医療少年院などで出会った少年たちのことを、ドキュメント小説『ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』(新潮新書)で描いています。その登場人物のなかに、田町雪人という(架空の)少年がいます。貧しい母子家庭で育ち、6歳から万引きを始め、中学で児童自立支援施設に入所した雪人は、そこを出てから建設現場で働いたものの、職場での暴力、無免許運転、窃盗、無銭飲食などが続いて16歳で少年鑑別所に入所し、軽度知的障害を疑われたため医療少年院に送致されました。

軽度知的障害はIQ(知能指数)がおおむね50~70で、雪人のIQは68でしたが、家庭環境などによって低く出ることも多いとされ、障害認定を受けない境界知能との差はあいまいです。

雪人はどこにでもいるふつうの若者ですが、小学校3、4年レベルのコミュニケーション力しかなく、繰り下がりのある引き算ができず、丸いケーキを三等分する方法がわかりません。願い事を3つ訊ねると、「家族がみんな幸せ」「一生困らないお金」「戦争のない世界」と答えました。

少年院で勤勉賞を受けるなど優等生として過ごした雪人は10カ月で出院し、母と2人で暮らしながら、地元の建設会社で働きはじめます。ところが仕事がなかなか覚えられず、遅刻を注意した主任を思わず殴ってしまいます。解雇された雪人は、母の期待を裏切らないために、パチンコ店でたまたま出会った地元の先輩から誘われた仕事を始めます。それは特殊詐欺の受け子でした。

最初の仕事は大阪駅で200万円を受け取ることで、5万円の報酬をもらいました。ところが2度目の相手は知り合いの女性で、受け取りに失敗してしまいます。先輩から、1週間で50万円用意できないと大変なことになるといわれた雪人は、つき合い始めたばかりのあゆみから借りることにします。あゆみはアルバイトしながら、美容師の専門学校に入る学費を貯めていたのです。

1か月で利子をつけて返すと約束してあゆみから借金した雪人ですが、返すあてはありません。強く催促された雪人は、あゆみを夜の公園に呼び出して交渉しようとしますが、「嘘つき! 警察に言ってやる!」と叫ばれ、近くにあった石を拾うと後頭部めがけて思い切り殴りつけました。

雪人は裁判で「(知的)障害だからといって刑を軽くしてもらわなくていいです」と述べ、殺人で懲役13年の刑に服した――という物語です。

週刊プレイボーイ』2023年2月27日発売号 禁・無断転載