沖縄のヤンキーたちの(知られざる)世界

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年4月公開の「「しーじゃとうっとぅ」は沖縄のヤンキーの絶対の掟であり、桎梏」です(一部改変)。

なお、本稿で紹介する社会学者、打越正行さんは2024年12月に急性骨髄性白血病でお亡くなりになりました。享年45。ご冥福をお祈りいたします。

Suchart Boonyavech/Shutterstock

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さまざまな社会調査で、日本の社会は大卒と非大卒(中卒・高校中退・高卒)の学歴によって分断されていることがわかってきた。だが私たちは(すくなくとも私は)、非大卒の世界をほとんど知ることなく、興味ももたずに生きてきた。

そんなことを考えて、知念渉氏の『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー ヤンキーの生活世界を描き出す』(青弓社)を手に取った。これは大阪の底辺高校の男子生徒(ヤンチャな子ら)の軌跡を20代前半まで追跡した貴重な記録だ。

参考:〈ヤンチャな子ら〉はどのような人生を歩むのか?

知念氏が参与観察した高校の生徒たちは、大きく〈ヤンチャ〉〈ギャル〉〈インキャラ〉に分類された。〈インキャラ〉は「陰気なキャラクター」の略語で、〈ヤンチャな子ら〉は(おそらくは〈ギャル〉も)、学校内で自分たちを「〈インキャラ〉ではない者」と位置づけている。

それは、かつての不良のように、〈ヤンチャな子ら〉が番長グループや暴走族のような集団(共同体)をつくらなくなったからだろう。ヨーロッパの社会学者ジークムント・バウマン(戦前のポーランドに生まれ、ポーランド人民軍兵士としてナチス・ドイツと戦い、ワルシャワ大学で社会学を学んで講師となったものの、反ユダヤ主義の風潮のなかで大学を追放され、数カ国を渡り歩いたのちイギリス・リーズ大学の社会学教授となった)は、これを「液状化する近代」と名づけた(『リキッド・モダニティ 液状化する社会』森田典正訳/大月書店)。

これはなにも欧米だけのことではなく、日本の不良たちも「液状化」し、族(グループ)に分かれて敵対・抗争する〈ヤンキー〉から、よりゆるやかにつながる〈マイルドヤンキー〉〈半グレ〉になり、いまやそのつながりすらなくなって、たまたま知り合った同士が即興的な関係をもつ〈ヤンチャな子ら〉になったのだろう。

だが知念氏によれば、そのなかでも「地元」に生まれ、「地元」のネットワークのなかで育った〈ヤンチャ〉には社会(関係)資本があり、高校を出た(中退した)あともそのコネクションを使って仕事を探し、貧しいながらも安定した家庭をつくっていく。それに対して「地元」のない〈ヤンチャ〉は、最初は夢をもって働きはじめても、やがて糸の切れた凧のように都会をさまよい、「グレイな仕事」に手を染め、いつしか音信不通になっていく。

だとしたら、ヤンキー(ヤンチャ)は、地元(共同体)があればやっていけるのだろうか。

社会学者、打越正行氏の『ヤンキーと地元 解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房)は、このテーマを考えるうえで最適な研究成果だ。

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陰謀論はどのように生まれ、拡散するのか 週刊プレイボーイ連載(633)

1月29日、アメリカの首都ワシントンのレーガン・ナショナル空港に着陸しようとした旅客機に軍用ヘリ、ブラックホークが衝突、市内を流れるポトマック川に墜落し、双方の乗員・乗客70人ちかくが死亡しました。旅客機には元世界チャンピオンを含むフィギュアスケートの選手、コーチらが搭乗していたと報じられました

レーガン空港上空は、政府要人がヘリで移動することも多く、近くには大規模軍事施設もあり、アメリカでもっとも混雑する空域のひとつとです。管制官の人手不足も指摘され、当初は管制ミスによる事故ではないかといわれました。

ところがSNSであるインフルエンサーが、衝突の瞬間を鮮明に記録した動画を投稿したことで流れが変わります。ブラックホークは旅客機が正面から近づいているにもかかわらず、なんら回避の努力をしていないように見えるのです。

この空域ではヘリの高度は200フィートに制限されていたにもかかわらず、ブラックホークは高度300フィートまで上昇したとされます。こうして、事故はヘリのパイロットのミスか、あるいは意図的なものではないかとの疑惑が生じました。――その後、管制官は墜落の2分前と12秒前に旅客機についてヘリに警告していたことがわかりました。

ヘリは訓練飛行中で、3人のパイロットが搭乗していましたが、陸軍は当初、2人の氏名しか公表しませんでした。そしてこれが、なんとも奇妙な陰謀論を生むことになります。

飛行機事故についての動画には、ヘリに搭乗していた残りの1人がトランス女性のパイロットだという大量のコメントがつけられました。トランプが証拠を示さず、この事故の原因が「(多様性を重視する)DEIのせいかもしれない」と示唆したことで、このトランス女性はトランプ政権の反多様性政策に反対するために、軍用ヘリを旅客機に衝突させるという「テロ」を行なったにちがいないと決めつけられました……。

すくなくとも、カリフォルニア州とパキスタンの2つのニュースサイトがこの噂を「事実」として報じました。SNSの投稿から学習するXの人工知能チャットボット「Grok」も、ヘリに搭乗していたのがトランス女性だと回答するようになりました。

ところがその後、当のトランス女性が「私は生きており、衝突事故とはなんの関係もない」という動画をSNSに投稿し、噂を否定します。さらに陸軍も、残る1人のパイロットが28歳の女性であることを明らかにし、家族が公表を求めなかったと説明しました。

この出来事は、陰謀論がどのように生まれ、広まるかを教えてくれます。

きっかけは、事実が「隠蔽」されたことです。パイロットの身元を明らかにしないのは、知られたくない事情があるにちがいない、というわけです。

次に、この疑惑に対して多くのユーザーがSNSでさまざまな推理を投稿します。するとそのなかから、「そうだったのか!」ともっとも腑に落ちる投稿が選ばれ、それがバズることで、ウイルスが感染するように爆発的に拡散したのです。

当然のことながら、報道に疑問を呈したり、事実を検証しようとするのは正当な言論・表現の自由の範囲内です。フェイクニュースはちょっとしたことで生まれ、大きな影響力をもち、それを規制するのはものすごく難しいのです。

『週刊プレイボーイ』2025年2月17日発売号 禁・無断転載

〈ヤンチャな子ら〉はどのような人生を歩むのか?

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年4月公開の「日本社会は大卒か非大卒かによって分断されている」という”言ってはいけない事実”」記事です(一部改変)。

Hiroshi-Mori-Stock/Shutterstock

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SSM(社会階層と社会移動全国調査Social Stratification and Social Mobility)とSSP(階層と社会意識全国調査Stratification and Social Psychology)は、社会学者を中心に行なわれている日本でもっとも大規模で精度の高い社会調査だ。

その結果をまとめた吉川徹氏の『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(光文社新書)では、現代日本社会は学校歴ではなく学歴(大卒か非大卒か)によって分断されているとして、中卒・高校中退・高卒の「軽学歴」のひとたちをレッグス(LEGs: Lightly Educated Guys)と名づけた。衝撃的なのは、“ジモティー”や“ヤンキー”などと呼ばれ、マンガ、小説、テレビ・映画などで繰り返し描かれた彼らのポジティブ感情(≒幸福度)が際立って低いことだ。

参考:日本社会は学歴とモテ/非モテによって分断されている

吉川氏は次のように述べている。

若年ワーキングプア、正規・非正規格差、教育格差、勝ち組/負け組、上流/下流、子どもの貧困、さらには結婚できない若者、マイルドヤンキー、地方にこもる若者、地方消滅………次々に見出される現代日本の格差現象の正体は、じつはすべて「大卒学歴の所有/非所有」なのだ――。

これは日本社会において、これまで「言ってはいけない」とされていた事実(ファクト)だ。 続きを読む →