『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』発売のお知らせ

文春新書より『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』が発売されます。発売日は3月19日(火)ですが、本日が搬入なので、都内の大手書店ではこの週末に並んでいるところもあるかもしれません。 Amazonでも予約できます(電子書籍Audibleも同日発売です)。

書店で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

******************************************************************************************

そこは楽園か、ディストピアか?
シリコンバレーの天才たちが希求する「数学的に正しい統治」とは?

アメリカのIT企業家の資産総額は上位10数名だけで1兆ドルを超え、日本のGDPの25%にも達する。いまや国家に匹敵する莫大な富と強力なテクノロジーを独占する彼らは、「究極の自由」が約束された社会――既存の国家も民主主義も超越した、数学的に正しい統治――の実現を待ち望んでいる。
いわば「ハイテク自由至上主義」と呼べる哲学を信奉する彼らによって、今後の世界がどう変わりうるのか?

*  *  *

私はずっと、日本ではリバタリアニズムが不当に無視されていることを不思議に思っていました。いまやリバタリアニズムは、指数関数的(エクスポネンシャル)に高度化する強大なテクノロジーのちからを背景に、テクノ・リバタリアニズムとなって現実に世界を変えつつあるからです。

本書ではイーロン・マスクピーター・ティールの第一世代と、サム・アルトマン(オープンAI)とヴィタリック・ブテリン(イーサリアム)の第二世代を中心に、世界を数学的に最適化しようとする彼らの思想を論じています。

クリプト(暗号)アナキズムの「(西部開拓時代のような)究極の自由」と、総督府功利主義による「管理された(監視社会の)自由」は対立しあうのではなく、一卵性双生児のような関係になっています。「自由」と「監視」はコインの裏表なのです。

ーーというようなことを書きました。ご一読いただければ幸いです。

******************************************************************************************

『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』【目次】

はじめに  世界を数学的に把握する者たち
PART0        4つの政治思想を30分で理解する
PART1   マスクとティール
PART2   クリプト・アナキズム
PART3   総督府功利主義
PARTX   世界の根本法則と人類の未来
あとがき  「自由」を恐れ、「合理性」を憎む日本人

「生涯現役」社会の不都合な事実 週刊プレイボーイ連載(595)

「何歳まで働くつもりですか?」という調査で、「70歳以上」との回答が39%(「70~74歳」21%、「75歳以上」18%)と過去最高になりました。「定年後は年金をもらって悠々自適」が当たり前だった日本でも、生涯現役へと大きく価値観が変わっていることがわかります。

「いつまでも元気に働く」ために大事なのは、健康とスキルです。医療技術の進歩によって平均寿命だけでなく健康寿命も延びていますが、スキルがなければ雇ってもらえないかもしれません。そこで注目を集めているのがリスキリング、すなわち職業教育です。

しかし、何歳になっても新しいスキルを身につけることができるのでしょうか? 70歳を過ぎてからプログラミングを勉強しはじめ、81歳でスマホ向けのアプリを開発し、アップルのティム・クックCEOから「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介された日本人女性がいますが、誰もが真似できることではないでしょう。

「職業訓練は効果があるのか」という疑問は、すでに半世紀前に大規模な社会実験が行なわれています。

ジョン・F・ケネディ大統領時代のアメリカでは、工場移転や鉱山閉鎖によって多くの労働者が職を失うことが社会問題になっていました。そこで連邦政府は職業訓練制度を創設し、1963年~71年に約200万人のアメリカ人が受講しました。

その後、経済学者がこの制度を評価しましたが、労働者の所得が上がった形跡は一部で見られたものの、費用対効果があったかどうかの判断は難しいという結果になりました。この制度が当初、とくに呑み込みが早い層の再訓練を重視し、その後、呑み込みが遅い層に軸足を移したものの、後者では多くの脱落者が出たからです。

それ以降、アメリカ政府はさまざまな雇用・職業訓練制度を導入していますが、多くの制度は効果の判定が困難です。最近、文献レビューを行なった経済学者も、「効果はまちまちだが、やや失望を招く結果が出た」と述べています。

ここからわかるのは、成人への再訓練は埋もれた人材を発掘する効果はあるものの、適性に欠けた労働者の訓練に税を投入しても、コストに見合うリターンは期待できないということでしょう。すくなくとも、あらゆる政策が「やりっぱなし」の日本に比べて、こうした“不都合な事実”を検証しようとするアメリカは立派です。

では、大学が行なっているリカレント(学び直し)教育はどうでしょうか? これはイギリスのデータですが、社会人向けの(学位を授与しない)教育プログラムの数は大幅に増加したものの、2004年から16年のあいだに学生数はほぼ半減しています。

こちらの場合は理由が明らかで、リカレント教育を受けてもその実績が再就職に反映されず、授業料に見合うメリットがないからです。日本でも事情は同じで、社会人向けの講座はカルチャーセンターのような“趣味”と見なされ、履歴書に書いてもほとんど評価されないでしょう。

けっきょくところ、あわてて「生涯現役」に対処しようとするのではなく、40代、あるいは50代までに汎用的・専門的なスキルと経験を身につけておかなくてはならないという、当たり前の話になるようです。

参考「70歳以降も働く、最多39% 将来不安「経済」が7割」日本経済新聞2024年2月18日
カール・B・フレイ『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス』村井章子、大野一訳/日経BP

『週刊プレイボーイ』2024年3月4日発売号 禁・無断転載

闇(ダーク)ネットはどうなっているのか

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年2月22日公開の「トロール(荒らし)や実況ポルノ、拒食症のピアサポートなど、「自由」という糸でつながるネットの「闇(ダーク)」サイトの住人たち」です(一部改変)。

wsf-s/Shutterstock

******************************************************************************************

イギリスのジャーナリストで、シンクタンク「デモス(Demos)」のソーシャルメディア分析センター・ディレクターでもあるジェイミー・バートレットは、2007年から過激な社会的・政治的運動の研究を始め、ヨーロッパおよび北米地域のイスラム過激派の動きを追跡し、アルカイダのイデオロギーに共鳴した若者たちのネットワークを解明しようとした。だが2010年にこの研究を終えたとき、「世界は変わってしまったようだった」とバートレットはいう。陰謀論者、極右活動家からドラッグカルチャーまで、彼が遭遇したあらゆる新しい社会現象・政治現象がオンラインに移っていたからだ。

こうしてバートレットは、ネットの「裏世界」に足を踏み入れることになる。そこで彼が発見したのは、「異なるルール、異なる行動様式、異なる登場人物のいる、パラレルワールド」だった。

今回は、バートレットの『闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕』(星水裕 訳/CCCメディアハウス)に拠りながら、英語圏のネット世界の現状を見てみよう。そこから、インターネット黎明期にひとびとを魅了した「自由」がどのように変形したかが見えてくるはずだ。 続きを読む →