香港人のプライベートバンカーからその奇妙な名刺を見せられたのは、3年ほど前のことだった。名前のほかに、携帯電話の番号とホットメール(マイク ロソフトが運営する無料メール)のアドレスしかない怪しげな名刺は、日本出張の必需品だという。それ以外にも、顧客情報の入ったパソコンの携行は許されず、資料はあらかじめ現地の知人宛に郵送しておくなど、さまざまな規則があるのだと教えられた。
その当時、UBS、クレディスイス、香港上海銀行など大手金融機関のプライベートバンク部門は、香港に日本人(および日本語を話す外国人)担当者からなる「ジャパンデスク」を擁し、日本の富裕層を積極的に開拓していた。いずれも歴史と信用を誇るグローバル金融機関ばかりだが、それがまるで犯罪者のように身分を偽って入国審査をすり抜けるのだ。彼はジョークとして語ったが、私にはそれが真っ当なビジネスだとはとても思えなかった。 続きを読む →