ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2013年11月公開の記事です。(一部改変)

******************************************************************************************
「この世界は闇の権力によって支配されている」という考え方を陰謀論という。陰謀論の“主役”としてよく挙げられるのがフリーメーソンやユダヤ人(シオン賢者の議定書)で、ときには悪魔や宇宙人のこともある。オウム真理教はアメリカのCIAとフリーメーソンによって攻撃されているとしてサリン製造を急いだ。
フリーメーソンはヨーロッパの結社のひとつで、「神とは理性のことである」とする理神論を奉じる啓蒙主義者によってつくられた(中世の石工を起源とするとの説もある)。フランスの三色旗「自由・平等・友愛」の友愛とは、地縁・血縁の伝統社会の人間関係ではなく、異なる階級のひとびとが同じ理想を掲げて戦う結社的友情のことだ。
フリーメーソンが秘密結社になったのは、革命運動のなかで王政からの弾圧を受けたためだ。近代革命が達成されるとメーソンの会員の多くが社会の主導的地位についたため、有名人クラブのようなものに変わっていった。
戦後日本でもダグラス・マッカーサーがフリーメーソンだったため、進駐軍の知遇を得ようと入会を希望する者が相次いだ。鳩山一郎はGHQによって公職追放されたあとにメーソンに入会し、追放解除を得て首相の座を獲得した。
数ある結社のなかで、なぜフリーメーソンだけが「陰謀」とともに語られるのだろうか。そこにはさまざまな理由があるだろうが、ひとびとに強烈な印象を残したのが1980年代にイタリア社会を震撼させたP2事件であることは間違いない。
この事件ではフリーメーソンのなかの“秘密結社”が陰謀の主役となっており、そのことが噂や憶測ではなく司法機関と議会の調査によって立証されたのだ。
P2事件の最大の疑惑は「法王暗殺」だが、それについてはすでに書いた。
バチカン市国「神の資金」を扱う闇の男たち(前編)
バチカン市国「神の資金」を扱う闇の男たち(後編)
ここではそれに次ぐ大事件となった“神の銀行家”ロベルト・カルヴィの変死とアンブロジャーノ銀行の倒産から、「陰謀論者の運命」について考えてみたい。
無数のクーデターやテロ計画が生まれては消える「陰謀論的世界」
戦後のイタリアは、世俗的な北部で共産党が勢力を伸ばし、それに対抗する保守派のキリスト教民主党は南部の伝統的な社会を地盤とした。そこはコーザ・ノストラ(マフィア)の支配する土地で、60年代になると政治家たちの腐敗は誰の目にも明らかになった。反戦平和を求める学生運動の影響もあり、選挙のたびに共産党は大きく票を伸ばすようになった。
1972年の選挙で、共産党はキリスト教民主党の38.8%に次ぐ27.2%の得票を獲得して第二党になった。76年の選挙では34.4%まで得票を伸ばし、38.7%のキリスト教民主党にあと一歩まで迫った。
こうした状況に強い危機感を抱いたのが右派の政治家と軍部、それにイタリアの共産化を阻止したいアメリカCIAとバチカンだった。バチカンにとってマルクス主義の無神論は「悪魔の思想」だが、イタリアに共産党政権が誕生する衝撃はたんなるイデオロギー問題ではすまなかった。ローマの一角にあるバチカンは生殺与奪の権をイタリア政府に握られており、イタリアはその気になればラテラノ条約で認めた「主権」を見直し、バチカンの財産に課税したり、政治や行政に介入することもできるのだ。 続きを読む →
