ルワンダのジェノサイドのあと、加害者と被害者は「和解」についてどう語ったのか?

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年5月にルワンダを旅したときの記事です。(一部改変)

Kigali Genocide Memorial(Alt-Invest.com)

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1994年4月、人口730万の東アフリカの小国ルワンダで、わずか100日のあいだに100万人以上が虐殺されるという大規模なジェノサイドが起きた。犠牲になったのは少数派(人口の15%)のツチ族で、加害者は多数派(同85%)のフツ族だ。

その3カ月後、隣国ウガンダから進軍したルワンダ愛国戦線(RPF/Rwandan Patriotic Front)が権力を掌握すると、報復を恐れたフツ族は西に向かって逃亡し、コンゴ民主共和国との国境にあるキブ湖北岸のゴマに巨大な難民キャンプをつくった。

欧米のメディアが、ジェノサイドの加害者である難民たちを犠牲者であるかのように報じ、それを利用して欧米の人道団体が、寄付集めのために「虐殺者」を積極的に支援した経緯については前回述べた。

参考:ルワンダのジェノサイドはどのようにして起きたのか?

新生ルワンダにとって、国境の向こうにある難民キャンプは重大な脅威だった。キャンプを支配していたのはフツの過激派で、難民たちにツチへの憎悪を植えつけると同時に、人道団体からの支援金を詐取するなどして武器を購入し、ルワンダ国内に侵入しては殺人・強奪を繰り返していたからだ。

1995年末時点で、ゴマにある4つの主要難民キャンプにはバー2324軒、レストラン450軒、ショップ590軒、美容室60軒、薬局50店舗、仕立屋30軒、肉屋25軒、鍛冶屋5軒、写真スタジオ4軒、映画館3軒、2軒のホテルと食肉解体場が1カ所あった。これらはすべて、人道団体の援助でつくられたものだ。働かずに安楽に暮らせるのなら難民たちはキャンプに定住し、半永久的にルワンダ国内へのテロが続くことになる。

そのためルワンダ軍はキャンプの撤収を指示し、15万人におよぶ難民を国内に移送させた。その背景には、ジェノサイドによる人口の激減で、荒れ果てた農地を耕す労働力が必要だったという事情もあるようだ。

こうして、多くの「虐殺者」がルワンダに帰還した。だがそこには、ジェノサイドを生き延びたサバイバー(生存者)が暮らしていた。 続きを読む →

日本の税制をハックし海外で暮らす若者たち(週刊プレイボーイ連載661)

イーロン・マスクの資産が一時5000億ドル(日本円で約75兆円)を超えたように、グローバル資本主義によって格差がとめどもなく拡大しているとされます。これは間違いではないものの、その一方で欧米や、日本をはじめとする東アジアでは、富裕層が急速に増えています。

プライベートバンクが毎年公表している富裕層レポートでは、2024年末時点で純資産100万ドル以上のミリオネアは全世界で約5200万人、そのうちアメリカが約2400万人と半数ちかくを占めています。次いで中国(633万人)、フランス(290万人)とつづき、日本は第4位で約273万人の億万長者がいます。

これらのミリオネアをみな世帯主として概算すると、アメリカではなんと5世帯に1世帯、日本でもおよそ20世帯に1世帯が純資産100万ドルを超えていることになります。富裕層の増加は主に先進諸国の都市部で地価が上昇したのが理由で、格差拡大が騒がれる一方で、わたしたちはとてつもなくゆたかな社会で暮らしているのです。

こうした「富の爆発」の象徴がビットコイン長者です。暗号とブロックチェーンのイノベーションを組み合わせたネットワーク上の通貨が登場したのは2009年1月で、翌年にはピザ2枚が1万ビットコインと交換されました。このピザの値段は、いまでは12億ドル(約1800億円)になっています。

このクリプト(暗号資産)に初期の頃から夢中になり、テクノロジーが社会を変えるという確信、あるいは国家が発行する通貨を忌避するリバタリアンの信念からその後も保有しつづけたひとは、短期間で大きな富を獲得しました。熱烈なビットコイン信者は「ビットコイナー」と呼ばれます。

日本では、株式・債券などの金融商品は分離課税で、配当や売却益に約20%の税を納めると課税が完結します。ところがビットコインなど暗号資産は金融商品と認められていないため、雑所得として総合課税され、その最高税率は地方税を含め最高55%です。

その一方で、金融商品でないことのメリットもあります。2015年の税制改正によって、国外に転出することで日本国の非居住者になり、なおかつ1億円相当以上の資産を保有している場合、その資産の含み益に所得税が課税されることになりましたが、暗号資産は課税対象の「資産」とは見なされないのです。

このようにしてビットコイン長者の若者たちが、不合理で理不尽な税制を嫌って日本を捨てるようになりました。いったん日本の非居住者になってしまえば、もはや日本国に税を納める必要はなくなるのです。

そんなビットコイナーの若者が東南アジアや中東のドバイなどで暮らしていることを知ってから、小説の題材にできないか考えはじめました。日本の税制を「ハック」して、一生使いきれないほどの富をもっていても、現地の言葉を話せない国で生きていくのは退屈でさびしいかもしれません。

そんな若者が「冒険」を求めたとき、なにが起きるのか。新作『HACK』(幻冬舎)ではそんな物語を書いてみました。書店で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

参考:Global Wealth Report 2025 (UBS Global Wealth Management)

『週刊プレイボーイ』2025年10月27日発売号 禁・無断転載

ルワンダのジェノサイドはどのようにして起きたのか?

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年5月にルワンダを旅したときの記事です。(一部改変)

Kigali Genocide Memorial(Alt-Invest.com)

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2019年5月にはじめてルワンダを訪れた。「百聞は一見に如かず」というが、東アフリカのこの小さな国は現在、「アフリカの奇跡」「アフリカのシンガポール」と呼ばれる驚異的な経済発展をつづけており、高層オフィスビルや5つ星ホテル、高級レストランなどが次々とつくられている。

なにより驚いたのは治安のよさで、地元の中産階級が暮らす住宅街を若い白人女性がごくふつうに歩いている。アフリカを知っているひとなら、これがどれほどありえないことかわかるだろう。

南アフリカのヨハネスブルクなどが典型だが、高級住宅地は高いコンクリートの塀と電流の流れる有刺鉄線で囲まれて、中の様子を伺い知ることはできない。富裕層はちょっとした外出でも車を使い、「散策」できるのは外の世界からかんぜんに隔離された高級ショッピングモールのような場所だけ、というのが当たり前だからだ。

ルワンダと聞いて多くのひとが思い浮かべるのが1994年代のジェノサイドであり、映画『ホテル・ルワンダ』だろう。大きな困難を体験した国が、わずか四半世紀でなぜここまで発展できたのか。そんな興味でこの国の歴史をすこし調べてみた。

対立する「民族の起源」

ルワンダの悲劇を説明するには、この国を構成する「ツチ族」と「フツ族」という2つの民族から始めなければならい。とはいえ、これはそうかんたんなことではない。この地域がヨーロッパの考古学者や歴史家、人類学者によって研究されるようになったのは19世紀になってからで、民族の起源を示すような史料はきわめて少ないのだ。

約1万年前、最後の氷河期が終わるとアフリカの高地の氷が溶け、ヒトが住めるようになった。最初にこの土地を訪れたのは狩猟・採集で暮らすピグミー属のトゥワ族で、いまもルワンダで伝統的社会を維持しているが、その割合は1%程度しかいない。

トゥワ族のあとに中央アフリカから大湖地域に移住してきたのがバントゥー系の民族で、森を焼いて農業を始めた。バントゥーはアフリカ最大の民族グループで、ルワンダでは「フツ」と呼ばれるようになった。

ここから「民族の起源」は大きく2つの説に分かれる。「フツ=ツチ同族説」と「ツチ移住説」だ。 続きを読む →