「新自由主義(ネオリベ)型福祉国家」スウェーデン

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2016年6月23日公開の「北欧は、「新自由主義(ネオリベ)型福祉国家」に変貌していた」です(一部改変)。

Elzbieta Krzysztof/Shutterstock

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安倍政権は2016年4月に予定されていた消費税率10%への増税を再延期したうえで、アベノミクスの是非を争点に7月10日に参院選を行なうことになった。アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の“3本の矢”でスタートしたが、昨年(2015年)9月、安倍首相は「アベノミクスは第2ステージに移る」として、「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の“新3本の矢”で「1億総活躍社会」を目指すと宣言した。

新3本の矢は「抽象的なお題目」だと評判はかんばしくないが、社会保障制度や日本人の働き方など、日本社会の根幹にあるさまざまな矛盾にメスを入れる覚悟を示したものともいえるだろう。その一環として1月の施政方針演説では「同一労働同一賃金の実現」を掲げた。「保育園落ちた日本死ね!」のブログをめぐる騒動では、待機児童問題が一向に改善せず、子育て中の女性が「活躍」しよう思っても保育園に預けられない実態が明らかになって、「女性が輝ける社会」を看板にする安倍政権は対応に追われている。 続きを読む →

BLMを支持した”リベラル”が、反イスラエルデモを弾圧するのはなぜ? 週刊プレイボーイ連載(602)

アメリカの大学で、イスラエルの後ろ盾になっているバイデン政権に抗議するパレスチナ支持の運動が広がっています。

ニューヨークにあるコロンビア大学は、全米でもっともリベラルな大学のひとつですが、4月18日にテントを張ってキャンパスを占拠していた学生たちを大学側が警察を使って排除、100人あまりが逮捕されました。ところがこれによって抗議活動はさらに激化し、イェールなど東部の名門大学だけでなく、UCLA(カリフォルアニ大学ロサンゼルス校)やスタンフォードなど西海岸の大学でも占拠が始まり、40校でデモが起き2000人超が逮捕される事態になりました。

東部や西海岸のリベラルな大学は、社会正義(ソーシャルジャスティス)を求める学生たちの行動を一貫して支持してきました。BLM(ブラック・ライヴズ・マター)では、活動家たちは「白人は生れたときからレイシスト」で、警察を解体すべきだという過激な主張をしましたが、それに比べればイスラエル批判はずっと筋が通っています。

まずなによりも、ガザへの攻撃によって子どもを含む3万人以上の市民が死亡しており、国連が再三にわたって深刻な人道危機を訴えています。そのきっかけがハマスによるテロだとしても、イスラエルの攻撃は正当な報復をはるかに超えており、ICC(国際刑事裁判所)が戦争犯罪などの捜査を進めています(ネタニヤフ首相らに逮捕状が出るとの観測も浮上しています)。

イスラエルに対してはそれ以前に、国際的な人権団体であるHRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)とアムネスティが、パレスチナ人に対するアパルトヘイト(人種分離)を行なっているとの報告書を出しています。BLMはアメリカにおける「隠された人種差別」を告発しましたが、イスラエルでは明らかな民族差別が堂々と行なわれているというのです。

ところが不思議なことに、アメリカのリベラルな大学は「見えない差別」とたたかう運動にもろ手を挙げて賛同する一方で、学生たちが「(イスラエルの)見える差別」を批判するのを必死に抑えつけています。

その背景には、アメリカにおいてユダヤ人の権利団体が大きな影響力をもっていることや、私立大学がユダヤ系の富豪から多額の寄付を受けていることがあるのでしょう。大学当局は、BLMでは「レイシズムを容認するのか」と批判されることを恐れ、パレスチナ問題では「反ユダヤ主義」のレッテルをなんとしてでも避けようとしているのです。

2011年の「ウォール街を占拠せよ」では、2カ月にわたって路上や公園での座り込みが行なわれ、リベラルはこの運動を高く評価しました。ところが、若者の社会正義を鼓舞してきた知識人たちは、大学がわずか数日、占拠されただけで、(解体されるべきはずの)警察権力で非暴力の抗議運動を弾圧することを黙認しています。

「リベラル」を自称する者たちは、けっきょくは自分の保身しか考えていませんでした。大学占拠でパレスチナ問題が解決できるとは思えませんが、リベラルの欺瞞(きれいごと)とご都合主義を白日の下にさらしたことで、左派(レフト)の純真な若者たちの運動は十分な「成果」をあげたといえるでしょう。

『週刊プレイボーイ』2024年5月13日発売号 禁・無断転載

福祉国家の目的は「権力のコスパ」の最大化

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2018年6月15日公開の「デンマークという高度化した福祉国家の徹底した「権力のコスパ」政策」です(一部改変)。

Arcady/Shutterstock

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「自分の人生を自由に選択できない社会では、自己責任を問うことはできない」

おそらくすべてのひとがこの原則に同意するだろう。「奴隷が幸福になれないのは自己責任だ」などというひとは、すくなくともいまのリベラル化した社会には居場所がない。

だとすれば、論理的にはこの原則を逆にして、「人生を自由に選択できる社会では自己責任を問われることになる」はずだ。

「自己決定権」を最大限重視する北欧の国で「自己責任」はどのようになっているのだろうか。それを知るために参考にしたのが鈴木優美氏の『デンマークの光と影 福祉社会とネオリベラリズム』(壱生舎)だ。

参考:本人の意志と自己責任が徹底されたデンマークはどういう社会か?

『デンマークの光と影』は2010年の発売だが、ほとんど知られていない「世界でもっとも幸福な国」の内側を在住者の視点で観察したとても興味深い本なので、今回はいまの日本にとって示唆的な箇所を紹介してみたい。 続きを読む →