ポスト・トランプは左派ポピュリズムの時代になるのか?

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなってしまったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

米大統領選でトランプが返り咲いたので、前回の当選を受けて書いた「トランプ大統領にも止められない、 アメリカの「雇用の喪失」と「富の二極化」の先にある未来」をアップします。(公開は2017年2月16日、一部改変)。

Jonah Elkowitz/Shutterstock

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クリントン政権で労働長官を務めたリベラル派の経済学者ロバート・ライシュは、1991年に世界的ベストセラーとなった『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ 21世紀資本主義のイメージ』(中谷巌訳/ダイヤモンド社)で、21世紀のアメリカ人の仕事はクリエイティブクラスとマックジョブに二極化すると予言した。それから25年後、ドナルド・トランプが大統領に選出される前年に出版された『最後の資本主義』 (雨宮寛、今井章子訳/東洋経済新報社)は、ライシュの勝利宣言であると同時に、敗北宣言でもある。

勝利したのは経済学者としてのライシュで、敗北したのはリベラリストとしてのライシュだ。原著のタイトルは“Saving Capitalism”で、ライシュは「資本主義を救い出さなくてはならない」と述べる。これはどういう意味なのか、その真意を検討してみよう。 続きを読む →

精神科病院の長期入院をなくせばすべてうまくいくのか? 週刊プレイボーイ連載(621)

2022年に国連から強制入院の撤廃を勧告されたように、日本の精神医療は世界的には“異常”な状態が続いています。

精神科病院のベッド数は約32万床で全病院のベッドの約2割を占め、平均在院日数は276.7日で長期入院が常態化しています(2022年厚労省調査)。それに対して欧米では、精神科のベッド数を減らし、精神障害者を地域で包摂する試みが続けられてきました。その結果、人口1000人あたりの精神病床数では、イギリスは日本の約6分の1しかありません。

23年2月には、東京・八王子市の精神科病院で虐待が繰り返されていたとして、看護師や准看護師ら5人が逮捕・書類送検される事件が起きました。それでも精神医療改革がさして話題にならないのは、日本社会が精神障害者を「近くにいてほしくないひと」として排除し、精神科病院に隔離することを望んでいるからでしょう。

本人の意思に反した強制・長期入院や身体拘束、「薬漬け」といわれる向精神薬の大量投与などが重大な人権侵害なのは間違いありません。政府・行政には、いまや国際社会での汚点となったこの問題を改善していく重い責務があります。

このことを強調したうえで、ここでは「隣の芝生は青く見える」問題を考えてみましょう。そもそも、欧米のように精神科病床を減らし、地域社会への移行を進めれば、問題はすべて解決するのでしょうか。

イギリスの司法精神科医グウェン・アズヘッドは、サムという若者と両親の話を書いています。サムは手のかからない子どもでしたが、思春期に入ると幻聴を訴えるようになります。自宅で暮らしながら通院治療を受けますが、サムの被害妄想は悪化し、やがて姉の部屋をめちゃくちゃにしたり、父親に暴力をふるったりするようになりました。

両親を困惑させたのは、18歳になると成人向けの精神保健サービスに変わり、守秘義務によって、子どもがどんな治療を受けているか親に伝えられないことでした。

両親はサムをリハビリ施設に預けますが、ときどきふらっと自宅に現われては金をせびり、断ると暴力をふるうことが続きました。そこで両親は、息子に対する接近禁止命令を請求せざるを得なくなりました。

サムは精神科病院に入院しますが、イギリスには長期入院の制度がないため、退院してはホームレス状態になり、また入院する繰り返しになりました。そしてある晩、入院中のはずのサムが自宅に現われ、父親と言い争いになった挙句、キッチンにあった麵棒で殴り殺してしまったのです。

その後、母親は、息子が暴力をふるうことを伝えていたのに外出許可を出し、守秘義務を理由に、そのことを家族に伝えなかった病院を訴えました。

アズヘッドによれば、イギリスで精神科病院の減床が進んだ背景には、人権への配慮というよりも医療費の削減があり、その結果、精神疾患を抱えるひとたちがホームレスになったり、刑務所に収監されています。さらには地域サービスの大幅なコストカットが行なわれたことで、ケアの重圧が家族にかかり、こうした悲劇がしばしば起きているということです。

参考:グウェン・アズヘッド、アイリーン・ホーン『そして、「悪魔」が語りだす 司法精神科医が出会った狂気と共感の物語』宮﨑真紀訳/海と月社

『週刊プレイボーイ』2024年10月28日発売号 禁・無断転載

2020年の米大統領選前に考えたこと

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなってしまったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

米大統領選の投票日が近づいてきたので、前回の大統領選の前(2020年10月22日)に書いた「米大統領選前に考察 「世界最強の帝国」アメリカで今、起きていること、 これから起きることとは?」をアップします(一部改変)。

shutterstock

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世界じゅうから大きな注目を集めているアメリカ大統領選がいよいよ決着がつく。「世界最強の帝国」でいったい何が起きており、これからどうなってしまうのか。今回はそんな興味で読んだ2冊を紹介したい。

1冊目はジョージ・フリードマンの『2020-2030 アメリカ大分断 危機の地政学』(濱野大道訳/早川書房)で、原題は“The Storm Before The Calm(静けさの前の嵐)”。

フリードマンは地政学の第一人者で、1996年にインテリジェンス企業「ストラスファー」を創設、政治・経済・安全保障にかかわる独自情報を各国の政府機関や企業に提供し、「影のCIA」の異名をもつという。これまで世界的なベストセラーになった『100年予測』『続・100年予測』『ヨーロッパ炎上 新・100年予測 動乱の地政学』が翻訳されており(いずれもハヤカワNF文庫)、本書はそのフリードマンが、トランプ大統領誕生を受けてアメリカの未来を予測したものだ。

2冊目はフランシス・フクヤマの『IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と怒りの政治』(山田文訳/朝日新聞出版)。『歴史の終わり』で知られる政治学者のフクヤマが、アメリカ社会がアイデンティティで分裂するようになった理由を考える(原題は“IDENTITY: The Demand for Dignity and The Politics of Resentment”で邦題のまま)。 続きを読む →