トランプ勝利は「多様性という正義」へのバックラッシュ 週刊プレイボーイ連載(623)

大接戦が予想されたアメリカ大統領選挙は、激戦州を制したドナルド・トランプが投票日の翌未明に早々と勝利宣言しました。支持者による連邦議会議事堂占拠の“扇動”や、4つの起訴と有罪判決もものともせず、ほぼ完勝という結果になったのはなぜでしょうか。

ひとつは、新型コロナの感染が拡大した2020年を除けば、トランプ時代はアメリカ経済が好調で、物価も安定していたからでしょう。リベラル派が言い立てたような「世界の破滅」は起きず、未知の感染症がなければトランプ再選は確実視されていたのですから、それが4年遅れで実現したとしても驚くようなことではないかもしれません。

もうひとつは、黒人男性が白人の警官に窒息死させられた事件をきっかけに20年5月に始まった「ブラック・ライヴズ・マター」の運動です。これをきっかけにアメリカ社会における「構造的人種差別」があらためて注目され、一部の活動家は「白人は生まれたときからレイシスト」と唱えました。

その後、保守派のインフルエンサーが主催するトランプ支持のパーティに、高学歴の白人の若者が参加するようになりました。もともとリベラルだった彼ら/彼女たちは、いきなり「人種差別主義者」のレッテルを貼られたことに驚愕し、トランプやイーロン・マスクが唱える反ウォーク・反ポリコレに共感するようになったのです。

しかし、それにも増して決定的なのは「移民問題」でしょう。トランプはバイデン政権で不法移民が急増し、治安が悪化して労働者の職が奪われたと演説し、「犯罪者を追い出す」と約束して支持者を熱狂させました。

ヒトには無意識のうちに「俺たち」と「奴ら」を分ける強い性向があり、異なる属性をもつ者たちを「敵」として警戒します。民主党はトランプをジェンダー差別や人種差別で攻撃しましたが、トランプは不法移民をより大きな脅威に仕立てることで、リベラルの選挙戦略を無効化することに成功したのです。

保守かリベラルかは、パーソナリティの主要な要素のひとつである「経験への開放性」に影響されるといわれます。留学や海外旅行、外国への移住など新しい経験に魅力を感じるひともいれば、生まれ育った町で家族や友人に囲まれて暮らすことに安心感を覚えるひともいます。

パーソナリティは正規分布する(ベルカーブになる)らされ、経験への開放性が高いリベラルなひとたちと同様に、新しい経験を不安に感じる保守的なひとたちも、どんな社会にもおよそ半分います。それにもかかわらず、リベラル(左派)はこのことを無視して、「多様性という正義」を実現しようとしてきました。

トランプは「白人至上主義」と批判されますが、今回の選挙ではヒスパニックや黒人のあいだでも支持が拡大しました。トランスジェンダーなど性的少数者の権利を擁護することが、伝統的な家族の価値を破壊すると恐れる層が、「多様性の象徴」であるカマラ・ハリスを拒否したことが考えられます。

そのように考えれば、トランプの勝利も、ヨーロッパを席捲する「極右」政党も、極端なリベラル化へのバックラッシュなのかもしれません。

参考:エリック・カウフマン『WHITESHIFT[ホワイトシフト]白人がマイノリティになる日』臼井美子訳/亜紀書房

『週刊プレイボーイ』2024年11月18日発売号 禁・無断転載

リベラルの理想世界で最底辺に突き落とされる「やってもできない」ひとたち

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年1月17日公開の「アメリカのもっとも著名なリベラル知識人が唱える 「テクノロジーのスーパーノバ」時代に対する答えがバカげている」です(一部改変)。

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トーマス・フリードマンはアメリカのジャーナリストで、オックスフォード大学で中東学の修士号を取得したのち、UPI通信やニューヨーク・タイムズの支局員としてベイルートに派遣され、イスラエルのレバノン侵攻やパレスチナ人の抵抗運動インティファーダを取材してピューリッツァー賞を受賞した。2000年以降は市場のグローバル化に関心を移し、日本でも『レクサスとオリーブの木 グローバリゼーションの正体』( 東江一紀訳/草思社)や『フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来 』(伏見威蕃訳/日本経済新聞出版社)がベストセラーになった。20年以上にわたってニューヨーク・タイムズのコラムニストとして活躍しており、世界でもっとも著名な言論人の一人だ。

フリードマンの最新刊『遅刻してくれて、ありがとう 常識が通じない時代の生き方』(伏見威蕃訳/日本経済新聞出版社)の原書の副題は“An Optimist’s Guide to Thriving in the Age of Accelerations Version 2.0”(加速する時代2.0で繁栄する楽観主義者のガイド)となっている。

アメリカのリベラル派の代表的な論客であるフリードマンは、トランプ大統領を生み出した背景に雇用環境の急速な変化があるとして、いつものような精力的な取材によってその現状と処方箋を探っていく。その結果、どのような結論に至ったのかを見てみたい。 続きを読む →

アメリカや欧州の右派ポピュリズムの背景にあるのは移民問題

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2017年2月2日公開の「現代のポピュリズムは「原理主義的なリベラル」。 トランプ大統領は「公約を守り巨悪と戦うヒーロー」を演じつづけるだろう」です(一部改変)。

DIAMOND Onlineにアップした「米大統領選でのトランプの圧勝には、有色人種や白人との混血人種が「白人化」した「ホワイトシフト」の影響があった」も合わせてお読みください。

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トランプ大統領が(2017年の)就任直後に出した、中東・アフリカ諸国のイスラーム圏出身者や難民の入国禁止令が、アメリカはもちろん世界じゅうで抗議行動を引き起こしている。それ以外にもメキシコに「国境の壁」の費用を求めるとして首脳会談を中止したり、日米の自動車メーカーにメキシコでの工場の建設中止や米国内での雇用への貢献を求めるなど、予測不能の“暴走”は止まりそうにない。

それに加えてヨーロッパでも、イギリスのEU離脱交渉開始が迫り、オランダやフランス、ドイツなどで重要な選挙が目白押しになっていることで、あらためてポピュリズムに注目が集まっている。これまで「リベラリズム」を牽引してきた欧米の先進諸国でいったいなにが起きているのだろうか。

あまり指摘されないが、ここでのポイントは、現代のポピュリズム(右派ポピュリズム)がリベラズムと親和性が高いことだ。欧米では人種主義の「極右」は後景に退き、移民排斥を掲げる政治集団は人種差別(レイシズム)から距離を置いて、自らを「リベラル」と位置づけている。――トランプの言動も、きわめてあやういものの、かろうじてリベラルの枠内に収まっている。

「右翼のリベラル化(あるいは「リベラルの右傾化」)」というこの奇妙な反転を指摘したのはヨーロッパ政治史を専門とする水島治郎氏で、私はこれを『反転する福祉国家 オランダモデルの光と影』(岩波現代文庫)で教えられのだが、水島氏は近年の状況を新刊の『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)でまとめているので、これに基づいてリベラリズムとポピュリズムの親和性を考えてみたい。 続きを読む →