リベラルの理想世界で最底辺に突き落とされる「やってもできない」ひとたち

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年1月17日公開の「アメリカのもっとも著名なリベラル知識人が唱える 「テクノロジーのスーパーノバ」時代に対する答えがバカげている」です(一部改変)。

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トーマス・フリードマンはアメリカのジャーナリストで、オックスフォード大学で中東学の修士号を取得したのち、UPI通信やニューヨーク・タイムズの支局員としてベイルートに派遣され、イスラエルのレバノン侵攻やパレスチナ人の抵抗運動インティファーダを取材してピューリッツァー賞を受賞した。2000年以降は市場のグローバル化に関心を移し、日本でも『レクサスとオリーブの木 グローバリゼーションの正体』( 東江一紀訳/草思社)や『フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来 』(伏見威蕃訳/日本経済新聞出版社)がベストセラーになった。20年以上にわたってニューヨーク・タイムズのコラムニストとして活躍しており、世界でもっとも著名な言論人の一人だ。

フリードマンの最新刊『遅刻してくれて、ありがとう 常識が通じない時代の生き方』(伏見威蕃訳/日本経済新聞出版社)の原書の副題は“An Optimist’s Guide to Thriving in the Age of Accelerations Version 2.0”(加速する時代2.0で繁栄する楽観主義者のガイド)となっている。

アメリカのリベラル派の代表的な論客であるフリードマンは、トランプ大統領を生み出した背景に雇用環境の急速な変化があるとして、いつものような精力的な取材によってその現状と処方箋を探っていく。その結果、どのような結論に至ったのかを見てみたい。 続きを読む →

アメリカや欧州の右派ポピュリズムの背景にあるのは移民問題

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2017年2月2日公開の「現代のポピュリズムは「原理主義的なリベラル」。 トランプ大統領は「公約を守り巨悪と戦うヒーロー」を演じつづけるだろう」です(一部改変)。

DIAMOND Onlineにアップした「米大統領選でのトランプの圧勝には、有色人種や白人との混血人種が「白人化」した「ホワイトシフト」の影響があった」も合わせてお読みください。

SibRapid/shutterstock

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トランプ大統領が(2017年の)就任直後に出した、中東・アフリカ諸国のイスラーム圏出身者や難民の入国禁止令が、アメリカはもちろん世界じゅうで抗議行動を引き起こしている。それ以外にもメキシコに「国境の壁」の費用を求めるとして首脳会談を中止したり、日米の自動車メーカーにメキシコでの工場の建設中止や米国内での雇用への貢献を求めるなど、予測不能の“暴走”は止まりそうにない。

それに加えてヨーロッパでも、イギリスのEU離脱交渉開始が迫り、オランダやフランス、ドイツなどで重要な選挙が目白押しになっていることで、あらためてポピュリズムに注目が集まっている。これまで「リベラリズム」を牽引してきた欧米の先進諸国でいったいなにが起きているのだろうか。

あまり指摘されないが、ここでのポイントは、現代のポピュリズム(右派ポピュリズム)がリベラズムと親和性が高いことだ。欧米では人種主義の「極右」は後景に退き、移民排斥を掲げる政治集団は人種差別(レイシズム)から距離を置いて、自らを「リベラル」と位置づけている。――トランプの言動も、きわめてあやういものの、かろうじてリベラルの枠内に収まっている。

「右翼のリベラル化(あるいは「リベラルの右傾化」)」というこの奇妙な反転を指摘したのはヨーロッパ政治史を専門とする水島治郎氏で、私はこれを『反転する福祉国家 オランダモデルの光と影』(岩波現代文庫)で教えられのだが、水島氏は近年の状況を新刊の『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)でまとめているので、これに基づいてリベラリズムとポピュリズムの親和性を考えてみたい。 続きを読む →

2年前の夏の凶弾が日本を変えた? 週刊プレイボーイ連載(622)

衆院選で自民・公明の与党が過半数を割る大敗を喫した背景には、2年以上も続いた実質賃金の低下があります。

安倍政権は「日本復活」を賭けてリフレ政策を採用しましたが、日銀がどれほど金融緩和しても物価は上昇せず、その代わりに円高が修正されて、日本経済は「ゆたかにもならないけれど、貧乏というわけでもない」というぬるま湯につかっていました。

超低金利では銀行に預けたお金は増えませんが、物価が安定していれば、去年と同じ暮らしが今年、来年へと続いていきます。これはとりわけ、年金だけで暮らしている高齢者に大きな安心を提供したでしょう。業績がふるわない中小企業も、銀行からの借り入れにかかる金利は微々たるもので、市場から退出を迫られることもありません。

それに加えて、人類史上、未曽有の超高齢社会に入った日本では、需要と供給の法則によって、稀少な若者の価値が上がっています。大学を卒業すれば(あるいは高卒でも)ほぼ確実に就職できるし、就活がうまくいかなくても、20代であれば簡単に転職できるようになりました。これが、安倍政権が若者のあいだで高い支持率を維持できた理由のひとつでしょう。

しかし、こうした経済条件は新型コロナの蔓延と、ロシアのウクライナへの侵攻によって劇的に変わりました。これまで日銀がなにをやっても動かなかった物価が、上昇しはじめたのです。

これで日本はようやくデフレから脱却できましたが、そのあとにやってきたのは、リフレ派がいっていたような「日本経済の大復活」ではありませんでした。給料がすこし増えても、生鮮食料品や電気代など、物価がそれを上回って上昇すれば家計はどんどん貧しくなっていきます。「超円安」で欧米やアジアなどから外国人観光客が「安いニッポン」に殺到し、一杯3000円を超えるラーメン店に行列する姿がテレビで報じられると、「日本は欧米以外ではじめて近代化に成功した経済大国」というプライドも崩壊しました。

こうして国民の不満が溜まっているところに起きたのが、「政治とカネ」問題です。ところが自民党の政治家にとっては、これはパーティで集めた資金を派閥に上納し、そのキックバックを記載しなかったというもので、税金を詐取したわけでもなく、たんなる帳簿の不記載だとたかをくくっていたのでしょう。しかし、自分たちが苦しい家計を必死にやりくりしているのに、政治家は「裏金」でおいしい思いをしているという反発は予想以上で、それに気づいて関係する議員を非公認にしましたが、それにもかかわらず2000万円の活動費を支給していたことが報じられて万事窮しました。

結果論でいうならば、石破首相は自民党議員の既得権に配慮するのではなく、これまでの正論を貫き通したほうがよい結果を得られたと思いますが、いずれにせよすでに手遅れだったということなのでしょう。

今回の選挙で、政治の流動化がよりはっきりしました。野党ではすでに議員の離合集散が当たり前になっており、派閥が選挙を仕切れなくなれば、自民党でも同じことが起きるのは当然です。それでも、2年前の夏の凶弾が日本の政治に与えたインパクトの大きさには驚くべきものがあります。もっとも、この事実を認めるひとは多くないでしょうが。

『週刊プレイボーイ』2024年11月4日発売号 禁・無断転載