日本の”リベラル”は、自分たちが「保守」だと見られていることに、いつになったら気づくのか? 週刊プレイボーイ連載(610) 

7月7日に行なわれた東京都知事選は、小池百合子氏が290万票あまりの得票で圧勝し、3選を決めました。

新聞社の出口調査によると、全体の約7割が2期8年の小池都政を「大いに評価する」「ある程度評価する」と答えました。そのうち実際に小池氏に投票したのは半分強ですが、時事通信の世論調査では岸田政権の支持率が2割を大幅に割り込んでいることを考えれば、選挙をするまでもなく勝負は決まっていたのでしょう。東京都民は、いまの生活にけっこう満足しているのです。

注目を集めたのは、立憲民主党と共産党の支援を受けた蓮舫氏の得票(128万票)が、前広島県安芸高田市長で東京ではほぼ無名だった石丸伸二氏(166万票)にも及ばず、40万票ちかい大差をつけられたことです。

立憲民主党の幹部は選挙運動に予想以上の手ごたえがあったと感じていて、開票結果が出るまでは「蓮舫は小池に勝てるのではないか」と思っていたといいますから、その衝撃は察するにあまりあります。

大敗の理由は、年齢別の投票動向を見るとわかります。

NHKの出口調査によると、石丸氏の得票率は10代・20代でもっとも高く、年齢が上がるほど下がっていって、70代以上で最低になる逆三角形です。それに対して蓮舫氏は、60代と70代以上の得票率がもっとも高く、年齢が若くなるほど支持率が下がる三角形になっています。――さらに蓮舫氏の得票率は、10代・20代や30代でも小池氏を下回っています。

立憲民主党や共産党は、自分たちを「リベラル」と自称しています。一般には、若者ほどリベラルで、高齢になるほど政治思想は保守に傾くとされています。これについては欧米の調査で、年をとると「保守化」するのではなく、社会全体が「リベラル化」していて、若い頃の価値観を年をとってももちつづけるからだとわかっています。

しかしそうなると、日本では「リベラル政党」ほど若者の支持率が低いことが説明できません。実際、安倍政権が若者から高い支持を得ているとの結果が出るたびに、メディアや識者は「日本の若者が右傾化している」と騒ぎ立てました。

しかし、夫婦別姓から同性婚まで、政治的価値観の調査では、日本でも若者ほどリベラルで、高齢者ほど保守的であることが繰り返し示されています。「若者の保守化」論は破綻しているのです。

どうすれば、この矛盾を説明できるでしょうか。それは、「日本では”リベラル政党”が保守化している」と考えることです。

これなら(自称)リベラルが若者から見捨てられ、高齢者から強く支持されている現状をすっきり理解できます。

日本のリベラルは、「平和憲法を守れ」「年金を守れ」「紙の保険証を守れ」と、ひたすら現状維持を主張するばかりで、現役世代の負担がどれほど重くなっても、高齢者の既得権を侵すような改革に強硬に反対してきました。

そう考えれば、蓮舫氏に投票したのがおじいさん、おばあさんばかりで、若者たちが「改革の夢」を見させてくれる候補者に投票したのは、なんの不思議もないのです。

参照:橘玲『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』朝日新書

『週刊プレイボーイ』2024年7月22日発売号 禁・無断転載

フランスとアフリカの旧植民地との複雑骨折したような歴史

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2016年4月14日公開の「現代フランスはアフリカから生まれた!? なぜ北アフリカ出身の移民だけがフランスへの「同化」を拒否するのか?」です(一部改変)。

MartinTrama/Shutterstock

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前回の記事で、「世界でもっとも安全なはずのヨーロッパでテロが頻発するようになった理由はさまざまだろうが、私の理解では、その深淵には長い植民地支配の歴史がある」と書いた。

参考:「フランスが植民地問題を謝罪しない理由(前編)」
   「フランスが植民地問題を謝罪しない理由(後編)」

これが私の独断でないことは、たとえばフランス近現代史の本に次のように述べられている(N.バンセル、P.ブランシャール、F.ヴェルジェス『植民地共和国フランス』 平野千果子、菊池恵介訳/岩波書店)。

今日の「フランスの若い世代」の約三人に一人は、旧植民地出身である。その彼らのアイデンティティを植民地共和国の歴史に立ち戻らずに作り上げようとしても、破綻は目に見えており、ルサンチマンや憎しみが増幅される結果にもなりかねない。このままでは、フランス本国と海外領土の双方において、新たな緊張が生まれるだろう。

この予言的な一文はパリ同時多発テロが起こるずっと前、2003年のものだ。その頃からすでに移民出身の若者たちの暴動が社会問題になっていたが、歴史家たちはその理由を、「フランスが過去の植民地の記憶を否認し、歴史を修正して美化しているからだ」と批判したのだ。

もちろん私はこのことで、「テロの標的になるのはフランス側にも非がある」など主張するつもりはない。ただ日本だけなく(あるいは日本以上に)欧米諸国でも、「歴史問題」は深刻だということは押さえておく必要があるだろう。

それではフランスはなぜ、これまで植民地時代の「負の歴史」を直視せずにすんできたのだろうか。そこにはフランスとアフリカの旧植民地との奇妙な共依存がある。 続きを読む →

フランスが植民地問題を謝罪しない理由(後編)

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2016年3月31日公開の「最後発の日本と違い、大航海時代から始まった植民地支配をいまさら「反省・謝罪」をしない欧州・フランスの事情」です(一部改変)。

参考:「フランスが植民地問題を謝罪しない理由(前編)」

hapelinium/shutterstock

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2016年3月22日、ベルギーでIS(イスラム国)による同時テロが発生し、空港と地下鉄で30人以上が死亡する惨事となった。世界でもっとも安全なはずのヨーロッパでテロが頻発するようになった理由はさまざまだろうが、私の理解では、その深淵には長い植民地支配の歴史がある。

近現代史をみれば明らかなように、日本は最後発の「帝国」で、最初の帝国主義戦争は1894年の日清戦争、朝鮮半島を植民地化したのは1910年だ。それに対してヨーロッパ列強がアフリカ、南北アメリカ大陸を侵略し、奴隷制で栄えたのは15世紀半ばの大航海時代からで、イギリスが東インド会社を設立してインドなどを次々と植民地化したのは1600年代だ。フランスのアルジェリア支配も1830年から1962年まで130年に及ぶ。日本とはその規模も影響力も桁ちがいだ。

私見によれば、これが日本が中国・韓国などから過去の歴史の反省と謝罪を求められる一方で、欧米諸国が植民地時代の歴史を無視する理由になっている。日本の場合は謝罪や賠償が可能だが、ヨーロッパの植民地支配は現代世界の根幹に組み入れられており、いまさらどうしようもないのだ――イスラエルとパレスチナの対立はヨーロッパのユダヤ人差別と第二次大戦中の場当たり的なイギリスの外交政策が引き起こしたが、だからといって過去を「反省・謝罪」したところでまったく解決できないだろう。

そのためヨーロッパでは、「植民地時代の過去」は日本とはまったく異なるかたちで現われる。

前回は、2005年にフランス国民議会で与野党の圧倒的多数で可決された「(アルジェリアからの)引き揚げ者への国民の感謝と国民的支援に関する法(以下、引揚者法)」を紹介した。私たち日本人が驚愕するのは、この法律の第4条1項で、「大学などの研究において、とりわけ北アフリカにフランスが存在したことについてしかるべき位置を与える」と定め、さらに第2項で、(高校以下の)学校教育において「海外領土、なかでも北アフリカにフランスが存在したことの肯定的な役割」を認める、と明記したことだ。

この第4条2項はその後、紆余曲折を経て廃止されることになるのだが、今回は平野千果子氏の『フランス植民地主義と歴史認識』(岩波書店)と、高山直也氏(国立国会図書館海外立法情報室)のレポート「フランスの植民地支配を肯定する法律とその第4条第2項の廃止について」に拠りながらその経緯を見てみたい。 続きを読む →