ヒトの本性は利己的(悪)なのか、利他的(善)なのか?

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2021年9月23日公開の「ヒトの本性は利己的(悪)なのか、利他的(善)なのか?」です(一部改変)。

rudall30/shutterstock

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オランダの歴史家、ジャーナリストのルトガー・ブレグマンは、広告収入にいっさい頼らないジャーナリストのプラットフォーム「デ・コレスポンデント」の創立にかかわり、2018年の著書”Utopia for Realists(現実主義者のためのユートピア)“で高い評価を得た。邦題は『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(野中香方子訳/ 文藝春秋)で、「機械との競争」による大量失業を避けるには、すべてのひとに無条件で生存と文化的な生活を保障する現金給付(ユニバーサル・ベーシックインカム)を行なうしかないと説いている。

そのブレグマンは新著『Humankind 希望の歴史』( 野中香方子訳/文藝春秋)で、進化生物学、進化心理学、社会心理学など「現代の進化論」を向こうに回してきわめて論争的な主張を展開している。その主張を簡潔に述べるならば、「ヒトの本性は利己的(悪)ではなく利他的(善)である」になるだろう。 続きを読む →

「子どもの疑問」に真面目に答えるには 週刊プレイボーイ連載(626)

子どもから「なんで約束を守らなくちゃいけないの?」と口答えされて、「そう決まっているからだ」と声を荒げたことはありませんか? 当然、子どもは納得しないでしょう。

「子どもの疑問」には返答に窮するものがたくさんあります。でもこの問いには、「約束を守って人間関係のコストを下げると、友だちがたくさんできるから」という“正解”があります。

「朝10時に駅に集合してみんなで公園に遊びに行く」という計画を立てたとしましょう。このとき1人だけ30分遅刻してくると、ほかのみんなはずっと待っていなければならないし、予定もくるってしまいます。すなわち、余計なコストがかかるのです。逆にいうと、ちゃんと約束を守る子どもは次に遊びに行くときも誘ってもらえます。

ウソをついたりだましたりするのが嫌われるのは、道徳的に間違っているというよりも、経済的・心理的な損失を被るからです。それに対して正直な相手は人間関係のコストが低いので、安心してつき合うことができます。

「なんで親のいうことをきかないといけないの?」はどうでしょう。「うるさい!」と怒鳴って、黙らせる親もいそうです。でもこれにも、「常識はコスパがいいからだよ」という“正解”があります。

横断歩道の渡り方から電車の乗り方、挨拶の仕方まで、常識というのは、これまでたくさんのひとが試行錯誤した結果、うまくいったやり方を知識として集めたものです。“子どもの浅知恵”で、それよりよい方法を思いつくということは、ふつうはありません。

勉強やスポーツも同じで、「こうすれば上達できる」というさまざまなマニュアルがつくられています。九九を暗記せずに掛け算を習得しようとしても、ものすごく時間がかかるか、あきらめてしまうだけでしょう。親の役割は常識を教えることで、子どもにとってもそれに従ったほうがコスパがいいし、うまくいく可能性が高いのです。

でもここで、「みんなと同じ人生なんて、そんなのつまらないよ」と反発するませた子どもがいるかもしれません。そんなときは、「99%は常識に従って、残りの1%は好きなこと/得意なことに集中すればいい」とアドバイスしましょう。

人類は長い進化の過程の大半を、濃密な共同体のなかで暮らしていました。そこでは仲間からの評判がすべてで、その結果、賞賛を快感(幸福)、批判を痛み(不幸)と感じるような脳の仕様がつくられました。

子どもが夢中になるのは、「スゴいね」「カッコいいね」と友だちからほめられることで、それはスポーツでも音楽でも、あるいは勉強でも、得意なことだけでしょう。こうして子どもは得意なことを好きになりますが、親がその選択に介入することはできません。

それでも「子どもの疑問」に真面目に答え、世の中の仕組みを教えることで、これからの人生にかなりのちがいを生み出すことができるでしょう。

そんな話を新刊『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)で書きました。子どもと楽しくゲームをしながら、「人生というリアルなゲーム」を攻略してください。

橘玲『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』

『週刊プレイボーイ』2024年12月9日発売号 禁・無断転載

人間の本性はアリに似ている

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2020年12月3日公開の「人間はチンパンジーよりもアリに似ている。 巨大な群れ(社会)をつくる生き物は自然界に社会性昆虫とヒトしかいない」です(一部改変)。

Nmaneer/Shutterstock

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マーク・W・モフェットは昆虫の生態を研究するフィールド生物学者で、「昆虫学界のインディ・ジョーンズ」の異名をもつ。「高校中退後、大学に進学し、近接撮影(マクロ撮影)を独学で修得し、ハーバード大学で昆虫学・生物学の大家E・O・ウィルソンの指導のもと略奪アリの研究で博士号を取得し、社会性アリと森林樹冠に生息する生物の生態研究を専門にしている」という。

『人はなぜ憎しみあうのか 「群れ」の生物学』(小野木明恵訳/早川書房)では、そんなモフェットが、さまざまな生き物の「群れ」を論じている。原題は“The Human Swarm: How Our Societies Arise, Thrive, and Fall(ヒトの群れ われわれの社会はどのように勃興し、繁栄し、崩壊するのか)”だが、誰もが知りたい謎に焦点を当てたタイムリーな邦題になっている。

ところで、アリを専門に研究してきたモフェットが、なぜヒトをテーマにすることになったのか。それは、「社会的な動物としての人間は、チンパンジーやボノボのような近縁種よりアリに似ている」からだ。今回は、このかなり衝撃的な前提から始まる興味深い「群れの生物学」を見てみよう。 続きを読む →