「女性が活躍する社会」や「一億総活躍」を掲げる安倍政権は「リベラル」だとこれまで何度か指摘しましたが、いまや首相自らが「私がやっていることは、かなりリベラルなんだよ。国際標準でいえば」と周囲に解説しているそうです(朝日新聞2017年12月26日朝刊)。
しかしこれは、驚くようなことでありません。安倍政権がリベラル化する理由は、次の2つで説明できます。
ひとつは「右」にライバルがいないこと。一時は小池都知事が「日本ファースト」を掲げて右派=ネオリベ層を奪取するかに思われましたが、昨年の総選挙で見事に失速したことで、「右」のひとたちは多少の不満はあっても安倍政権を支持するほかなくなりました。その一方で、民進党の分裂で「左」に広大なフロンティアが開けたのですから、憲法改正の悲願を達成するためにも、リベラルな政策で支持層を拡大していくのは当然の戦略です。
もうひとつは、「リベラル」以外に政策の選択肢がないこと。「保守」の安倍首相は本音では「女は家で子育てしてればいい」と思っているでしょうが、それでも「3年間だっこし放題」まで譲歩しました。ところがこれが「3年も育休してたら職場に復帰できない」と総すかんを食ったことで、「子どもを産んでも女性がハンディキャップを感じない社会」を目指さざるを得なくなりました。これはたしかに「国際標準」ですが、首相がリベラルに目覚めたのではなく、それ以外では女性の有権者が納得しないのです。
保守派のひとたちはいまだに「終身雇用・年功序列の日本的雇用が日本人を幸福にした」と思っているようですが、「働き方改革」では同一労働・同一賃金の実現や金銭的な補償で従業員を解雇できる制度の導入を目指しており、これは日本的雇用の「破壊」そのものです。
しかしだからといって、首相が「保守」を裏切ったわけではありません。日本の年金制度は55歳で定年退職し、65歳くらいで寿命を迎えた時代に設計されたものですから、「人生100年」時代に行き詰まるのは当然です。団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降、健康保険や介護保険が現在の仕組みのまま持続できると考える専門家はいません。
夫が20歳から60歳まで40年間働いたお金で、家を建て、子どもを大学に入れ、専業主婦の妻と年金で悠々自適の老後を過ごすという高度成長期のモデルは完全に破綻しました。100歳まで生きるとすれば「老後」は40年、夫婦2人で80年です。すでに1000兆円もの借金を積み上げた日本国に、ますます増えつづける高齢者の面倒が見られるのか、冷静に考えればこたえは明らかでしょう。
このようにして、安倍首相の政治信念に関係なく、女性や高齢者に働いてもらわなければ日本社会は回っていかなくなりました。これが「一億総活躍」で、たしかに国際標準のリベラルな政策ではありますが、それは「ほかにどうしようもない」という日本が置かれたきびしい状況を表わしているのです。
このようにして、今年も安倍政権はますます「リベラル化」していくでしょう。そして、保守とリベラルの区別は誰にもわからなくなるのです。
『週刊プレイボーイ』2018年1月15日発売号 禁・無断転