世界有数の観光地バルセロナのあるカタルーニャ州の独立問題でスペインが混乱しています。10月1日に行なわれた独立の是非を問う住民投票で9割を超える賛成を得た(ただし半数は棄権)ことでプッチダモン州首相は「カタルーニャ共和国」の独立宣言に署名、州議会で賛成多数で可決されましたが、住民投票自体が憲法裁判所で差し止められており、中央政府は州政府幹部を更迭し直接統治を行なうことを決めました。プッチダモン州首相は国家反逆罪や扇動罪で起訴され、州政府幹部とともにベルギーに脱出しました。
イラクのクルド人自治区でもほぼ同じ頃、独立分離の是非と問う住民投票が行なわれ、9割以上が独立に賛成しました(2017年9月25日)。クルド人は2500万~3000万人がイラク、イラン、トルコ、シリアに分かれて暮らし、「独自の国家をもたない世界最大の民族集団」とされています。クルド国家ができることは周辺諸国にも甚大な影響を与えるため、イラク政府は原油の生産拠点であるキルクークに軍隊を送って奪取し、トルコ政府はクルド地区から原油を送り出すパイプラインを遮断するとして圧力をかけました。これによって自治区の経済は混乱し、独立運動を主導してきたバルザニ議長が辞任を余儀なくされました。
スペイン政府がカタルーニャの独立を認めないことは最初からわかっていましたが、プッチダモン州首相は住民投票で独立派が圧勝すればEUが仲介に乗り出すとの“期待”を繰り返していました。しかしスペイン以外にもイタリア(北部地域)やベルギー(フランドル)などでやっかいな独立運動を抱えるEUがカタルーニャ側に立って介入できるはずはなく、「独立」の熱気が冷めればどこからも支援を受けられない現実がはっきりしました。
クルド自治区のバルザニ議長は、イラクやシリアでのIS(イスラム国)掃討作戦で、軍事組織ペシュメルガが米軍に協力して大きな成果をあげたことで、住民投票で圧倒的多数が独立を望んでいることがわかれば、「民主主義の擁護者」であるアメリカがイラク政府との交渉を仲介してくれるとの“希望”を振りまいていました。ところがトランプ政権は住民投票の実施にすら反対し、イラク軍によるクルド自治区への攻撃も容認しました。
とはいえ、カタルーニャ州のプッチダモン首相やクルド自治区のバルザニ議長を一方的に断罪するのは公正とはいえません。イギリスのEU離脱を決めた2016年6月の国民投票では、離脱派の圧力によってキャメロン首相には選挙以外の選択肢はありませんでした。これはカタルーニャ州やクルド自治区も同じで、ひとびとの独立への期待が高まるなか、評論家のように「そんなことできるわけない」といっていてはたちまち権力の座を追われてしまうでしょう。彼らはポピュリズムを煽ったかもしれませんが、ポピュリズムに抗することもできなかったのです。
イギリスのEU離脱交渉が混迷を深めているように、一時の激情で決めた判断はたいていうまくいかず、リアリストの主張が正しいことが証明されます。デモクラシー(民主政)というのはポピュリズムの暴発を防ぎ、莫大なコストをかけてひとびとに苦い現実を受け入れさせていく手続きなのかもしれません。
『週刊プレイボーイ』2017年11月13日発売号 禁・無断転載