日本マクドナルドが170億円の赤字に転落したことを発表しました。その要因はいうまでもなく、期限切れの鶏肉を出荷していた上海の食材卸会社と取引があったことです。この問題が大きく報じられたことで中国からの輸入食材に対する不安が再燃し、来店客数が大きく減少したとのことです。
ところで日本では、「中国産食材=汚染・危険」と誰もが思っていますが、意外なことに専門家のなかでは「国産より中国産が安全」との声も聞かれます。いったいどういうことでしょうか。
まず前提として、中国が食の安全に大きな問題を抱えていることは間違いありません。粉ミルクにメラミンが混入し乳児が腎臓結石になった事件以来、北京や上海などの都市部では中国産の乳製品をいっさい信用しない消費者が激増しました。それ以外でも春雨に漂白剤を使ったり、酒にメチルアルコールを入れたり、下水道の汚水から食用油をつくったり、違法行為は枚挙にいとまがありません。また長江以南の農地は工場排水などによる重金属類の汚染が深刻で、基準値を上回るカドミウムが含まれた汚染米が大きな社会問題になりました。
それではなぜ、中国産の食材が安全なのでしょうか。それは、日本の消費者が不安を抱けば抱くほど行政の輸入食品への規制が厳しくなり、食材の輸入・販売業者が安全確保に躍起になるからです。
冷凍餃子に劇薬が混入していた事件では、輸入元のJTフーズや販売した生協も深刻な打撃を被りました。それにもかかわらず中国からの輸入食材に頼らざるを得ないとしたら、二度と同じような事故を起こさないよう衛生管理を徹底するしかありません。
冷凍餃子事件の起きた2008年1月までの1年間で、日本では1292件の食中毒事件が起きていますが、このうち中国産食品が原因とされたのは冷凍餃子による3件だけで、他はすべて日本国内に原因がありました。
厚労省の「輸入食品監視統計」を見ても、中国産は輸入量(検査数量)が多いので違反数量はトップですが、違反割合は0.22%で平均を下回り、アメリカからの輸入食材(0.81%)の約4分の1です(平成24年度)。また厚労省が国産品と輸入品の残留農薬を検査したところ、国産品(0.34%)の方が輸入品(0.21%)より基準値を超える農薬が検出される割合が高かったというデータもあります(2003年)。中国産の残留農薬は輸入品の平均より低いのですから、これでは学校給食から追放すべきは国産やアメリカ産の食材で、子どもには中国産の食材を食べさせるべきだ、ということになってしまいます。
農業の専門家のあいだでは、乾燥した気候で冬が寒い山東省は無農薬・減農薬の野菜を栽培する適地で、手間のかかる農法は労働力が豊富で労賃の安い中国でなければ成り立たないというのが常識です。それに対して国内の都市部の菜園などは、無農薬栽培をしても土壌自体が汚染されている可能性があり、輸入食材とちがって残留農薬の検査もないため「かえって危険」なのです。
もっとも、こうした事実をいくら列挙しても、「中国産=危険」「国産=安全」というステレオタイプが覆ることはないでしょう。だとしたら賢い消費者は、偏見のお陰で安く売られている「安全な」中国産食材を使って美味しい食事を楽しめばいいのです。
参考:丸川 知雄『「中国なし」で生活できるか』
『週刊プレイボーイ』2014年10月20日発売号
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