ドイツの4回目の優勝でサッカーワールドカップの幕が閉じました。開幕前はスタジアム建設の遅れや反政府デモが危惧されましたが、「王国」ブラジルの凋落を象徴する7失点の衝撃も含め、今大会も世界じゅうを沸かせたことは間違いありません。
しかしそんななか、これまでになく大きな期待を背負った日本代表は予選リーグで1勝もできずブラジルを去ることになりました。日本がさらに強くなるためにはなにが足りないのでしょうか。
さまざまな提言があるでしょうが、ここで参考になるのはスイス代表です。
かつてヨーロッパの強豪だったスイスは、1970年代から欧州予選での敗退を繰り返す失意の時代を迎えますが、2006年からは3大会連続でワールドカップに出場し、世界ランクも最高6位まで上がりました。今大会はベスト16の激闘でアルゼンチンに延長の末1対0で敗れましたが、サッカー強国として復活したことは誰もが認めるところです。
人口800万人のスイスは世界でもっともゆたかな国のひとつで、サッカー以外に貧困からはいあがる術のないアフリカや中南米とはちがいます。スイス代表は、屈強なディフェンダーはいるものの鈍重なチーム、という印象でした。
そんなサッカーが変貌するきっかけは冷戦の終焉でした。
ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統一されると、東欧の共産諸国が次々と民主化してヨーロッパは動乱の時代を迎えます。そんななか、歴史的に複雑な民族問題を抱えるユーゴスラビアの統治が崩壊し、ボスニアやコソボで凄惨な内戦が勃発しました。こうして1990年代から、多くのひとびとが故郷を捨ててヨーロッパ諸国へと逃げ延びることを余儀なくされます。
スイスも積極的に難民を受け入れた国のひとつで、これが鈍重なサッカーを劇的に変えました。
スイス代表のメンバーを見ると、ジャカ、シャチリ、セフェロヴィッチなどの名前が並んでいます。アルゼンチン戦のスターティング・イレブンにはスイス以外にルーツを持つ選手が8人もおり、そのうち4人は旧ユーゴスラビア出身の移民1世です。彼らは子どもの頃に紛争を逃れてスイスに渡り、異国の地でサッカー選手としての才能を開花させたのです。
現在のスイス代表はスイス系と移民の混成チームで、中盤と前線は「東欧のブラジル」と呼ばれた旧ユーゴスラビア勢が担っています。このようにして屈強なディフェンスと俊敏な攻撃陣をあわせ持つ理想的なチームが生まれ、2000年代に入ってからの快進撃が始まりました。
それに対して日本代表は、ほぼ全員が日系日本人で構成されています。やはり1勝もできずに敗退した韓国代表のメンバーも韓国系韓国人ばかりです。
シリコンバレーには世界じゅうから文化的な背景の異なる優秀な若者たちが集まり、その多様性からさまざまなイノベーションが生まれています。優勝したドイツをはじめ、オランダやベルギーなどヨーロッパの強豪国は移民に支えられています。
これが強さの秘密ならば、日本の敗退の理由は“純血”にあるのかもしれません。
『週刊プレイボーイ』2014年7月22日発売号
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