明日(27日)発売の新刊『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの? 人生という「リアルなゲーム」の攻略法』(筑摩書房)のまえがき「あんな大人になるんじゃないぞ」を出版社の許可を得て掲載します。すでに都内の大手書店などでは店頭に並んでいるようです(電子書籍も同日発売です)。
書店さんで見かけたらぜひ手に取ってみてください。
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ずいぶん前の話ですが、那覇から東京に戻る最終便が大幅に遅れたことがありました。
羽田空港に着いたときは、電車やバスはとっくに終わっていました。しかたがないのでタクシー乗り場に行くと、案の定、長い列ができています。
列の先頭では拡声器をもった係員が、「ここで待っていても車は来ません。自分で手配してください」と叫んでいました。不思議に思ったのは、それにもかかわらず、列に並んでいたひとたちがまったく動こうとしないことでした。
たまたまタクシー会社の共通チケットをもっていたので、そこに載っている番号に順に電話してみました。
運よく2件目の会社で空港に向かっている車が見つかって、10分ほどで乗ることができました。その間、タクシー乗り場に車は1台も来ませんでした。
そのとき思ったのは、私のようにタクシー会社に電話するひとがいると、空港に向かう車はすべて押さえられてしまうのではないか、ということでした。だとしたら、黙って列に並んでいるひとたちはいつまで待つことになるのでしょうか。
そう考えると、深夜12時過ぎの長い列になにか不気味なものを感じました。
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近所のスーパーに自動レジができたときも、似たような体験をしました。
最初のうちは、自動レジはがらがらなのに、数を減らされた対面レジには長い列ができていました。自動レジにはスタッフが待機していて、使い方がわからなければ親切に教えてくれるのだから、なぜわざわざ時間のかかる対面レジに並ぶのか不思議でした。
そのスーパーは1階が雑貨、地下が食料品売り場で、どちらでも精算できるようになっていました。
あるとき、雑貨を買いにいったらレジスターが故障したらしく、店内を半周するくらいの列ができていました。そこでエスカレーターで地下に降りて、がらがらの自動レジで精算し、1階に戻ったら列はさらに長く伸びていました。
しかし、話はこれで終わりではありません。その後、さらに奇妙な光景を目にすることになったのです。
しばらくすると、使い方に慣れたのか、買い物客の多くが自動レジに並ぶようになりました。するとこんどは、対面レジを使うひとがいなくなったのです。
その日も、いつものように自動レジには長い列ができているのに、対面レジには誰もいませんでした。私がそこで精算していると、小学生の男の子を連れた父親が私のあとに並びました。
おしゃれなジャケットを着て、仕事帰りらしくブランドものの革のバッグをもった父親は、自動レジの長い列に目をやると、子どもにいいました。
「いいか、あんな大人になるんじゃないぞ」
このとき、本書の企画が生まれました。
この本では、親が子どもと簡単なゲームをしながら、これから「人生というリアルなゲーム」を攻略するときに、ほんとうに役に立つ知識を教える方法を解説しています。
正直にいうと、ここで書いたようなことに理解できたのは、30代の半ばを過ぎた頃でした。それまでは、「好きなことをやっていれば、なんとかなるだろう」と思っていたのです。
その後、成功しているひとはみな、多かれ少なかれ、共通の考え方をしていることに気づきました。それをひと言でいえば、「合理的に考える」になるでしょう。
なぜなら、わたしたちが生きている市場経済の世界は、合理的に考えるひとがお金持ちになるような仕組みになっているからです。
経済合理性というのは、ものすごく簡単にいうと、1+1=2ということです。
「なんだ、そんなの当たり前じゃないか」と、笑ったかもしれません。でも大人になると、1+1は3だとか、極端な場合は100になると思っているひとがたくさんいることに気づくでしょう。
そして、市場経済の残酷な世界では、1+1=2だという現実をちゃんと受け入れることができないと、カモとしていいように扱われ、失敗を繰り返し、なにもかもうまくいかなくなって、いつのまにか消えていくのです。
逆にいうと、1+1=2だという事実から考えることができるだけで、経済的に不合理なライバルに大きな差をつけられます。
もちろん、10歳でこの知識をもっていれば、必ず成功できるとはいえません。ただ、「他人と同じように長い列に並ぶ人生」にはならないことは約束できます。
なお、この本は小学生(高学年)や中学生でもわかるように書いています。忙しくて子どもとゆっくりゲームをする時間がないのなら、「これを読むとお金持ちになれる(あるいは、生きるのが楽になる)みたいだよ」と、子どもに渡してもいいでしょう。