自民党総裁選に出馬表明した河野太郎デジタル相が、年末調整を廃止し「すべての国民に確定申告していただきます」とSNSに投稿をしたことが、ネットニュースで話題になっています。
よく知られているように、会社員は給与から税・社会保険料を源泉徴収されています。このうち、社会保険料は支払額が確定していますが、所得税は扶養家族が増えたり、生命保険料控除などの各種控除を受けることで、払い過ぎが生じることがあります。年末調整はこれを計算し、還付を請求する手続きです。
アメリカでも給与からの源泉徴収は行なわれていますが、還付の計算は年度末に各自が行ない、タックスリターン(確定申告)は国民の一大イベントになっています。アメリカ人はこれによって、納税者としての自覚をもつようになるのです。
ところが日本では、サラリーマンの確定申告を会社に丸投げするという“イノベーション”によって、経理部に必要書類を提出するだけで還付の計算をしてもらえます。しかしこれでは、「納税者」であるにもかかわらず、自分の納税額すらちゃんと把握していないことになってしまいます。
それ以外にも、年末調整にはさまざまな批判があります。
ひとつは、国が会社をタダで使っていることです。徴税は国の仕事なのだから、それを民間事業者にアウトソースするのなら、相応の対価を支払うべきだというのです。
計算を簡便にするために、仕事の内容にかかわらず、給与所得控除を一律に決めているのも大きな矛盾でしょう。働き方が多様化すれば、仕事に必要な経費は一人ひとりちがってくるはずです。
より重要なのは、控除を受けるためには、家庭の状況を会社に伝えなければならないことです。結婚や出産ならいいではないか、と思うかもしれませんが、離婚したり、家族が障害者になったり、知られたくないこともあるでしょう。しかし、こうした情報がないと会社は正しい計算ができません(年末調整せずに、確定申告で還付を受けることは可能です)。
これが問題にならなかったのは、日本社会では会社は「イエ」であり、“家族”である社員のプライベートな情報を集めることに違和感がなかったからでしょう。しかしこうした価値観は、大きく変わっています。
近代的な市民社会は、有権者が民主的な手続きによって税金の使い方を決めることで成り立っています。そのため税の専門家からは、これまでも「源泉徴収はともかく、年末調整は廃止すべきだ」という意見がありました。「国民全員が確定申告する」という河野氏の主張は、その意味ではきわめてまっとうです。
それにもかかわらず、ネットには「面倒くさい」「裏金を暴かれた仕返し」などの批判があふれ、メディアもそれを面白おかしく報じるだけということに、日本の「民主主義」のレベルが象徴されています。
もうひとつ、やはり総裁選に出馬した石破茂氏が富裕層の金融所得課税を提案して批判されましたが、富裕税はアメリカでいうなら民主党左派(レフト)の主張です。そのような政策が自民党から出てくるのも、この国の不思議なところでしょう。
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