小池百合子氏が三選を決めた7月の東京都知事選は、56人が立候補するという“お祭り”状態になりました。ポスターを貼る権利を販売するという奇策によって特定の政党から24人が立候補していますが、それを除いても32人もの候補者がそれぞれの思想信条や政策を訴えて選挙に臨みました。
都知事選の供託金は300万円で、有効得票数の1割に達しないと没収されますが、全国的に話題になる選挙ではそれを上回る宣伝効果があると考えるため、この程度の金額では歯止めにはなりません。
そうかといって、供託金を引き上げると、真面目に政治家を目指すひとが立候補できなくなってしまいます。そもそも日本の供託金は世界的にもきわめて高く、フランスでは20年以上前に憲法違反として供託金が廃止されています。
それでは、「泡沫候補」たちが300万円を失ってまで訴えたいことはなんなのでしょうか。候補者名簿をざっと見ると、「ポーカー党(日本でポーカーを流行らせる)」や「ゴルフ党(ゴルフをもっと身近に楽しめるようにする)」のようにわかりやすいものもあれば、「ラブ&ピース党」「覇王党」「忠臣蔵義士新党」のように、その政治的主張がいまひとつ理解しづらいものもあります。
「泡沫」とはいえない候補者のなかには、日本を誇りのもてる国にするという保守派(あるいは排外主義者)もいれば、テクノロジーによって社会を変えることを目指すベンチャー起業家、反ワクチン派で精神医学を否定する医師など、さまざまな政治的主張があります。
デモクラシー(民主政)とは、多様な意見をもつひとたちが自由闊達に議論し、“集合知”によってよりよい解決策を見いだしていくことですから、本来であれば、立候補者が多いのは喜ばしいことのはずです。
今回の選挙では、候補者とはまったく関係のないポスターが大量に貼られるということが起きましたが、これも「選挙掲示板には意味がない」という政治的主張をするためのパフォーマンスだそうです。
リベラルを自称するメディアはこの事態を「民主主義の危機」と報じましたが、話は逆で、デモクラシー(市民による統治)が大衆化すれば必然的に起きることで、いわば「民主主義の進化」でしょう。
4月に行なわれた東京15区の衆議院補選では、他候補の選挙演説を妨害し、その様子を動画で撮影してYouTubeに投稿、再生回数を増やすとともに寄付を受け取る政治団体が現われ、公職選挙法違反容疑で幹部らが逮捕されました(この党の代表は勾留中に都知事選に立候補しました)。
この事件で興味深かったのは、これまでSNSを使って支持を広げてきたインフルエンサーが炎上のターゲットにされたことです。この行為が「妨害」なのか、それとも「議論」を求めているのかは主観の問題なので、容易に答えを出すことができません。
ただひとつわかっているのは、裁判によって違法の基準が示されれば、「違法でない」範囲で同じことが繰り返されることです。こうして「民主主義」の大衆化・液状化が進み、やがて「リベラル」が目指した理想の社会が実現するのでしょう。
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