第110回 遠い「電子政府」への道(橘玲の世界は損得勘定)

紙の健康保険証とマイナンバーカードを一体化させた「マイナ保険証」で10割負担を請求されるなどのトラブルが続出し、岸田政権は火消しに追われている。日本は世界的にも行政システムのデジタル化が遅れており、改革は当然だと思うが、それにしても不手際が目立つのではないか。そんなことを思ったのは、地方税のオンライン納税で思わぬ苦労をしたからだ。

法人の中間決算の時期になると、国税と都税事務所から納付書が送られてくる。国税の場合、この納付書だけでクレジットカード払いでき、ポイントを貯められるが、地方法人税だと、納付書を受け付けるのは銀行窓口などだけで、クレジットカードで支払おうとすればあらためて納税申告し、納付番号を発行してもらわなければならない。

なぜこんな面倒なことになっているのかさっぱりわからないのだが、文句は置いておいて、いまではeLTAX(エルタックス)で電子申告できるので、それを利用することにした。

納付書に記載された予定納税の額に異存がなければ、サイトのフォームにその数字を入力して申告は完了する(ここまででもけっこう大変なのだが)。次に支払い方法の選択があったので、「クレジットカード払い」をクリックしたら、なにもしていないのに、いきなり「お手続きが完了しました」という画面になってしまった。

困惑して都税事務所に問い合わると、申告情報が送られてきていないので納付番号が発行できないという。本来なら納税者が電子申告した情報はすぐに共有されるはずだというが、マニュアルを引っ張り出しても理由はわからず、最後には「手続き完了のメッセージが出たのだから完了しているのではないか」と言い出す始末で、まったく話にならなかった(ここまでで30分以上かかった)。

仕方がないのでサポートセンターに電話すると、ようやく原因が判明した。本来ならF-REGI(エフレジ)という公金支払いサイトがポップアップで立ち上がるはずなのだが、セキュリティのため、ブラウザがデフォルトでポップアップをブロックしていた。そのため、カード決済画面に移行しないまま「手続き完了」のメッセージが出てしまったのだ。

こんなことになったのは、電子申告のサイトと支払いサイトが別になっているからだろうが、これはいくらなんでも不親切ではないのか。支払いサイトが正しく立ち上がらない場合の警告表示をし、ブロック解除の方法を案内することくらいできるだろう。納税者が支払いをしないまま「手続き完了」画面を撮影し、「払ったはずだ」と主張したらどうするのか。

驚いたのは、公金支払いサイトでは納付を確認できず、eLTAXにもういちど戻って、メッセージ一覧から納付結果通知を開かなくてはならないことだ。なぜこんなに複雑なシステムにしてしまったのか。

この経験から電子政府への道が遠いことを実感したので、連日のように報じられるマイナカードの不祥事にも「やっぱり」という感想しかない。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.110『日経ヴェリタス』2023年7月8日号掲載
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