「闇バイト」に申し込むのはどういう若者なのか? 週刊プレイボーイ連載(554)

多額の現金がある家を特定し、SNSで集めた「闇バイト」を使って強奪する凶悪事件が全国で多発し、社会不安が高まっています。主犯と目された容疑者がフィリピンから強制送還されたことで全容の解明が待たれますが、ここでは末端の実行犯について考えてみましょう。

報道によると、彼らの多くは「日当100万円」などの投稿をSNSで見つけて連絡し、求めに応じて運転免許証などを送っていました。その後、強盗であることがわかって躊躇したものの、「家族に危害が加えられるのでやめられなかった」などと供述しているようです。共通するのは、犯罪行為を強要されたとき警察に相談するなど他の選択肢を考えることなく、「しかたない」と受け入れてしまっていることです。

精神科医の宮口幸治さんは、医療少年院などで出会った少年たちのことを、ドキュメント小説『ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』(新潮新書)で描いています。その登場人物のなかに、田町雪人という(架空の)少年がいます。貧しい母子家庭で育ち、6歳から万引きを始め、中学で児童自立支援施設に入所した雪人は、そこを出てから建設現場で働いたものの、職場での暴力、無免許運転、窃盗、無銭飲食などが続いて16歳で少年鑑別所に入所し、軽度知的障害を疑われたため医療少年院に送致されました。

軽度知的障害はIQ(知能指数)がおおむね50~70で、雪人のIQは68でしたが、家庭環境などによって低く出ることも多いとされ、障害認定を受けない境界知能との差はあいまいです。

雪人はどこにでもいるふつうの若者ですが、小学校3、4年レベルのコミュニケーション力しかなく、繰り下がりのある引き算ができず、丸いケーキを三等分する方法がわかりません。願い事を3つ訊ねると、「家族がみんな幸せ」「一生困らないお金」「戦争のない世界」と答えました。

少年院で勤勉賞を受けるなど優等生として過ごした雪人は10カ月で出院し、母と2人で暮らしながら、地元の建設会社で働きはじめます。ところが仕事がなかなか覚えられず、遅刻を注意した主任を思わず殴ってしまいます。解雇された雪人は、母の期待を裏切らないために、パチンコ店でたまたま出会った地元の先輩から誘われた仕事を始めます。それは特殊詐欺の受け子でした。

最初の仕事は大阪駅で200万円を受け取ることで、5万円の報酬をもらいました。ところが2度目の相手は知り合いの女性で、受け取りに失敗してしまいます。先輩から、1週間で50万円用意できないと大変なことになるといわれた雪人は、つき合い始めたばかりのあゆみから借りることにします。あゆみはアルバイトしながら、美容師の専門学校に入る学費を貯めていたのです。

1か月で利子をつけて返すと約束してあゆみから借金した雪人ですが、返すあてはありません。強く催促された雪人は、あゆみを夜の公園に呼び出して交渉しようとしますが、「嘘つき! 警察に言ってやる!」と叫ばれ、近くにあった石を拾うと後頭部めがけて思い切り殴りつけました。

雪人は裁判で「(知的)障害だからといって刑を軽くしてもらわなくていいです」と述べ、殺人で懲役13年の刑に服した――という物語です。

週刊プレイボーイ』2023年2月27日発売号 禁・無断転載