安倍元首相への銃撃事件はその後、旧統一教会と自民党との関係に飛び火し、国葬の是非をめぐっても議論は収まるどころかさらにヒートアップしています。
「世界基督教統一神霊協会」は北朝鮮出身の文鮮明が日本の植民地支配が終わった1945年に布教を始め、朝鮮戦争後の50年代末から日本での布教を開始しました。政治との関わりは、文鮮明が68年、自民党の大物政治家で元首相の岸信介や、右翼活動家でフィクサーでもあった児玉誉士夫らと国際勝共連合(名誉会長は笹川良一)を設立してからで、以来、その人脈は岸の娘婿の安倍晋太郎、孫の安倍晋三へと引き継がれたとされます。
国際勝共連合の目的はその名のとおり、共産主義に勝つことです。アジアや中南米で次々と社会主義政権が誕生し、ヨーロッパでも共産党が党勢を伸ばし、日本では全共闘による第二次安保闘争の嵐が吹き荒れる当時の状況を考えれば、右派の政治家にとって、強固な反共理念をもつ宗教団体と手を組むことは意味があったのでしょう。
ところがその後、ソ連の退潮で共産主義の脅威が薄れ、過度の勧誘や献金、合同結婚式などで統一教会が社会的な批判を浴びるようになっても、自民党は関係を切ることができませんでした。その理由は、選挙の票です。
日本には713名の国会議員(衆議院465名、参議院248名)がいますが、一般のひとが名前をあげられるのはせいぜん10人から20人でしょう。ほとんどの政治家は無名ですが、それでも選挙で票を集められるのは特定の団体とつながっているからです。
旧統一教会の信者数は諸説あるものの、60万人という公称は実態とはかけ離れ、熱心な活動家は2万から多くても6万人程度とされています。しかしその周辺には、選挙のときだけつき合うライト層がいて、それを合わせると十数万票を動かすちからはありそうです。
この票を取りまとめていたのが安倍元首相で、7月の参院選で自身の側近を当選させるために教団の票を回したとされます。この候補者は落選した19年の選挙から8万票ちかく上乗せしましたが、そのために現職の参議院議員が出馬を断念しており、統一教会の票で当選できたのはせいぜい数名でしょう。
それにもかかわらずなぜ大きな影響力をもつかというと、政治家は落選すると「ただの人以下」になってしまうからです。生き残るためには、数十票を取りまとめてくれる町内会長や商店会長にまで土下座しなくてはなりません。だとしたら、数千票、あるいは数百票であっても、確実な票をもつ団体が支援を申し出ればどうなるかは考えるまでもありません。
全国の農協関連団体が動かせる票は15~20万票といわれていますが、自民党内には農林族という族議員がいて農協の利権を守っています。こうした関係は、医療・看護、教育、公共事業関連など、政策とビジネスが直結するすべての業界で同じでしょう。
だとしたら問題は、政治と宗教の関係というよりも、巨人ファンや阪神ファンよりずっと少ない人数の団体が、不均衡に大きな政治的影響力を行使できる民主選挙の仕組みにあるのではないでしょうか。
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