「新しい資本主義」は岸田政権の大看板ですが、施政方針演説やその後の国会質疑でも具体像は語られず、野党からは「ぬかに釘」と批判されています。それでも、DX(デジタル・トランスフォーメーション)や気候変動対策、経済安全保障などと並んで、「格差」に取り組む決意は繰り返し表明されています。
格差というと富裕層と貧困層の二極化の話になりますが、日本の場合、その背景には正規/非正規の「身分差別」、親会社/子会社の「所属による差別」、海外の日本企業で行なわれている本社採用/現地採用の「国籍差別」などのさまざまな「差別」があります。
日本の知識人は右も左も、「終身雇用、年功序列の日本的雇用が日本人(男だけ)を幸福にした」として、「グローバル資本主義の雇用破壊を許すな」と大騒ぎしてきました。ところがその実態はというと、彼らの大好きな日本的雇用が、重層的な差別によって「日本人」や「(本社)正社員」など特権層の既得権を守ってきたのです。
このことは一部の経済学者がずっと前から指摘していましたが、「リベラル」を自称する識者たちは、こうした批判に「ネオリベ(新自由主義)」のレッテルを貼って罵詈雑言を浴びせ、封殺してきました。
差別を容認する者は、定義上、「差別主義者」です。最近になってジョブ型雇用(らしきもの)を推進できるようになったのは、日本的雇用の差別性が司法によって次々と指摘され、このままでは「差別主義者」の烙印を捺されてしまうと気づいた(自称)リベラルが黙るようになったからでしょう。
差別をなくすには、それを生み出す日本的雇用を徹底的に「破壊」するしかありません。「あらゆる差別と戦う」と喧伝してきた労働組合、リベラル政党、リベラルなメディアは、(彼らが「差別主義者」でなければ)諸手をあげて「働き方改革」に賛同するでしょうから、これこそが岸田政権が真っ先に取り組むべき課題です。
日本社会のさらなる大きな格差は、高齢者/現役世代の「世代間差別」です。人口推計では、2040年には国民の3分の1が年金受給者(65歳以上)になり、社会保障費の支出は200兆円で、現役世代を5000万人とするならば、その負担は1人年400万円です。
「世代会計」は国民の受益と負担を世代ごとに算出しますが、2003年度の内閣府「経済財政白書」では、年金などの受益と、税・保険料などの負担の差額は、2001年末時点で80歳以上の世代がプラス6499万円、40歳未満がマイナス5223万円で、その差は約1億2000万円とされました。――これがあまりに不都合だったからか、その後、政府による試算は行なわれていません。
人類史上未曾有の超高齢社会が到来したことで、いまの若者たちは「高齢者に押しつぶされてしまう」という恐怖感を抱えています。その結果、政治家がネットで「あなたたちのために政治に何ができますか?」と訊くと、「安心して自殺できるようにしてほしい」と”自殺の権利”を求める声が殺到する国になってしまいました。
未来を担う若者が生き生きと働ける社会を目指すのなら、このグロテスクな世代間差別を是正しなければなりません。これこそが、岸田政権が実現すべき「新しい資本主義」になるでしょう。
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