新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言の再発令を受けて、営業時間を午後8時までに短縮する飲食店などに1日6万円の協力金が支払われることになりました。そこで、近所のワインバーにどんな様子か訊いてみました。
マスターによると、「うちくらいの規模(満席で20人ほど)だと、1日6万円なら正直、悪くない金額です。常連さんがいるので店を開けてますが、協力金だけでじゅうぶんだと、(緊急事態宣言期間の)2月7日まで店を閉めたところもけっこうあります」とのことでした。それに比べてかわいそうなのは、飲食店に食材を卸している業者です。わずかな一時金だけで支援の対象から外されているので、ワイン卸商などは閉業するところがたくさん出てくるといわれているそうです。
都心一等地の高い家賃の店と郊外の家族経営の店、100人規模の大型店とカウンターだけの店では、営業時間短縮の影響はまったくちがいます。それにもかかわらず「一律1日6万円」というのはあまりにも大雑把です。案の定、「協力金では家賃や人件費などの固定費が賄えない」として「時短要請」を拒否する店も出てきたようですが、その場合は「店名公表」の可能性があるといいます。
ここで思い出すのは、「1人10万円」という特別定額給付金です。なぜこの国は、こんなに「一律」が好きなのでしょうか。
「個別の経済状況を知るためのシステムがないからだ」というかもしれませんが、そんなことはありません。マイナンバーで個人の収入や資産を把握することはできませんが、法人の申告は国税庁が法人番号で管理しており、データはデジタル化されてサーバーに格納されています。それを使えば事業者ごとの前年度の売上や利益、家賃・人件費などはかんたんに抽出できますから、それに合わせて協力金の額を決めればいいのではないでしょうか。
だとしたら、その理由は「できない」ではなく「やりたくない」でしょう。給付の金額に差をつけたとたん、「なんでうちだけ少ないんだ」「不公平だ」と収拾のつかない混乱になることがわかっているから。
イギリスでは企業が従業員の給与を支払日ごとにオンラインで歳入関税庁に報告する「即時情報(RTI)」システムがあり、政府はそれを使って所得が減った個人を把握しています。自ら支援要請しなくても、所得が減ったひとには「支援金の請求ができます」とのメールが送られてくるとのことです。
困っている個人や事業者だけを手厚く支援する方がずっと合理的に思えますが、日本社会の「平等」とは「みんな一緒」のことなので、それぞれの事情を考慮して扱いを変えるのは「差別」と見なされます。小規模な事業者は「善」、大企業は「悪」との思い込みもありそうです。
こうして、富裕層や公務員、年金受給者などコロナ禍でも収入が変わらないひとにも「一律10万円」を給付し、夫婦で自宅で営業している店にも、高い家賃を払い何十人もの従業員を抱えている店と同じ「一律1日6万円」を支払うことになります。
これこそが、「戦後民主主義」が目指した「平等な社会」の完成形なのでしょう。
参考:「英、コロナ支援6日で 所得補填、要請待たず「プッシュ型」 個人情報の「一元管理」カギ」日本経済新聞2020年12月4日
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