日本は破産するのでしょうか(2)

日本は破産するのでしょうか?」のエントリーにもたくさんのご質問をいただきました。それについて、わかる範囲でおこたえします。

実現性の高いシナリオとリスクヘッジについて

▼EAさん

国の借金である国債が800兆円以上だと騒がれています。その一方、借り手は日本国民だから、結局家族内で貸し借りしてるようなもので問題はないんだという意見もあります。いずれにせよ、借りたものはいずれは返さなきゃいけないわけですが、国民が持っている資産を国が回収する方法として、政治的にもっとも実現性の高いシナリオとしてはどのオプションだとお考えですか? また、それに対して 私たちができるリスクヘッジとしてできることは何がおすすめでしょうか?

日本国の財政状況については、人口動態や世代会計から議論はほぼ尽きていると思います。こうした現状分析でもっともわかりやすいのは小黒一正『2020年、日本が破綻する日』で、それによると、将来の社会保障費など「暗黙の債務」を含めた日本国の実質債務は約2100兆円(対GDP比で約420%)、時価会計したバランスシートでは約1430兆円の債務超過という天文学的な数字になります。

社会保障関連の財政負担は今後も増えつづけ、団塊の世代が75歳を超え、本格的に医療・介護サービスを利用しはじめる2020年にはほぼ確実に破綻します。今後3~5年のあいだに増税や給付削減による抜本的な社会保障改革が行なわれるか(これは政治的にきわめて困難でしょう)、年率5%程度の経済成長が実現しなければ(こちらも見込みは薄そうです)、大きな経済的動乱に巻き込まれることを覚悟すべきです。

将来のシナリオとしてもっとも可能性が高いのは、やはり「財政危機→インフレ」と、それにともなう金利上昇、円安でしょう。政治家のなかには、本音では、「もはやなにをやっても無駄だから、財政破綻した後のことを考えたほうがいい」というひともいます。

たとえインフレで現在債務が棒引きになっても、財政構造が変わらなければ将来債務は雪だるま式に増えていきますから、いずれにせよ増税と給付削減は避けられません。これは、きわめて過酷なものになる可能性があります。

インフレに対するリスクヘッジについては、「日本は破産するのでしょうか?」のエントリーで述べたとおりです。

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国家の暴走と財産税について

▼ででさん

「日本は破産するのでしょうか?」で国家破産の際のリスクヘッジの方法について纏められていましたが、心配性の私としては、冒頭の「私たちにとってもっとも恐ろしいのは、強権を持った国家が暴走することです」の部分がとても気になりました。

【質問1】

日本が破産しハイパーインフレが発生した場合、戦前の日本やドイツのように、日本が国家主義の国に変貌する可能性はあると思われますか?

日本が国家主義の国になり、財政を立て直すために財産税が導入(個人資産が没収)された場合、海外の金融機関に外貨預金や外国株を保有していても、税務署に海外資産を把握されていれば、個人の自由など軽視され、支払うまで収監されたりしそうです。

日本のような超高齢化社会で軍国主義や革命が成立するかどうかについては、私は懐疑的です。人口の4人に1人(2020年時点)が高齢者の社会(2050年には2.5人に1人が高齢者)では、戦争や革命のエネルギーすら残ってはいないでしょう(「どうしたら革命を起こせますか?」)。

ただそうはいっても、国家権力はあまりにも巨大で、その暴走は私たちの人生に壊滅的な影響を及ぼしますから、警戒が必要であることは間違いありません。

財産税については、憲法に規定された「財産権の侵害」にあたる以上、(憲法改正を必要とするかどうかはともかくとして)そう簡単には導入できないでしょう。財産税が政治課題に上がったとたん、大規模なキャピタルフライトを引き起こすことは避けられませんから、政治的には実行不可能だろうと思います。

仮にそのようなことが起きたとしても、財産税を根拠に、日本国が国民の海外資産を差し押さえる(海外金融機関に日本人口座を凍結させる)ことはきわめて難しいでしょう。こうした措置を強行すれば、海外に資産を持つ日本人は海外に移住するでしょうから、こちらもなんらの実効性もないことは明らかです。

【質問2】

日本が破産して、国家主義が蔓延する窮屈で住みづらい国になってしまったら、いち早く他の国に移住したいと思いますが、移住先を決める際に重視すべきポイントは何でしょうか?

個人的には、治安がいいことと、低福祉であることがポイントだと考えています。高福祉の国であれば移住しようとしても、そもそも移住できないか、移住しても排斥されてしまいそうです。

財政破綻の議論は別として、団塊の世代の一部が今後、海外居住を行なうようになれば、海外に日本人リタイア層の巨大なマーケットができる可能性があります。その際の移住先は、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、カンボジアなどの東南アジア諸国が中心となると思われます。

たとえばタイ(バンコク)では、最先端の病院(株式を上場する商業病院)は日本語での受診や治療が可能です(病院にはジャパンデスクがあり、日本語の通訳がつきます)。治療レベルは日本と遜色なく、病室は全室が個室(それもスイートルーム)なので、現地の日本企業の駐在員は、手術などもすべてバンコクで行ない病気になっても日本には帰りません(インドや東南アジア諸国の日本人駐在員も、日本ではなく、近くて快適なバンコクの病院を選びます)。

これらの国では、(お金さえあれば)日本と変わらないサービスが日本語で受けられるようになるでしょう。

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国民年金基金と小規模企業共済について

▼TSさん

「年金激減に備える投資法 月刊『文藝春秋』2010年2月号」の記事では、「それがいつになるかはわからないが、国家財政の危機は必ず起こる。その大波からいかに身を守るかが、一人ひとりに問われている。」と述べられていますが、このことを考えると

多少税金が増えたとしても、国民年金基金や小規模企業共済を止めにしてその分をVTやACWIで積み立てていった方がよいのかと迷っています(あるいは国民年金基金を個人型確定拠出年金で世界株式に変更するなど…)。

どうか現時点での見解をお聞かせ願えませんでしょうか?

これは難しい判断ですが、現時点では、国民年金基金や小規模企業共済がきわめて有利な資産運用方法であることは明らかなので、すぐにあきらめてしまうのはもったいないような気がします。そこで、以下のような戦略はどうでしょう。

マイクロ法人であれば、小規模企業共済の積立金は、(法人をいったん閉鎖するか、子どもに株式を譲渡することで)いつでも回収可能です。これなら実際にインフレになっても、共済金の予定利率(運用利率)が物価上昇率を下回った段階ですみやかに解約し、外貨建て資産などを購入することでリスクヘッジが可能になります。

小規模企業共済の解約が難しい状況だと、将来のインフレによって損害を被る可能性があります。

国民年金基金と個人型確定拠出年金の比較では、現在の超低金利では、国民年金基金で運用した方が有利なように思います。ただご指摘のように、将来のインフレを前提にすれば、資金の一部を個人型確定拠出年金に振り替えて、世界株式のような海外資産で保有するのは合理的でしょう。

とりわけ現在の円高を考えると、この戦略は一考の価値があると思います。

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