『週刊プレイボーイ』11月22日号の「“本”人襲撃」に掲載されたインタビュー「現代社会は不公平。それを受け入れたうえでどう生きるか」を、編集部の許可を得てアップします。
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勝間和代氏に代表される、超前向きな自己啓発理論が跋扈する現代ニッポン。だが、少し立ち止まって考えて見てほしい。本当に誰もが「やればできる」のか?できないのは本当に「努力が足りないから」なのか? こうした言説を真っ向から否定し、ある意味で“社会のタブー”に挑戦したのが本書(『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』)だ。
――この本は序盤から「知的能力は遺伝する」「得意・不得意は子供時代に決まる」と、身もフタもない“不都合な真実”を連発。あまりこんなことを大きな声で言う人はいませんが、読んでみるとミョーに納得感があります。
「知的能力も含め、多くの能力が遺伝するということは、すでに科学的にある程度証明されています。すべての能力は遺伝しない、後天的な能力で変えていける――この耳触りのよい言い分は、あくまで政治的なものです」
――そう思ってもらっていたほうが都合がいい?
「社会において、公の言説をつくってきたのは大学の教員です。彼らは、教育によってみんなが幸せになれるという“教育神話”を前提にして金を稼いでいる。いわば巨大な“知的既得権”が出来上がっているんです」
――しかし、本当は生まれながらにしてある程度、能力の幅は決まっている。
「能力を決めるのはまず遺伝、そして残りは子供集団のなかでの“キャラ確立原理”です。子供は自分が所属する集団のなかで、他人よりもできると思ったものを無意識に選択し、自分の資源を集中投下する。そうやって目立つことで異性を獲得していく仕組みは、生物としての基本OSみたいなものです」
――そうやって組み込まれてしまっているんですね。
「だから、理由を自分では説明できないんですが、例えば『ドラえもん』のジャイアンは無意識的に野球を好み、勉強を嫌う。とにかく、努力しようがしまいが、できることはできるし、できないことはできない――これが科学的事実なら、その前提を認めたうえで現実的な対処を考えるしかないでしょう」
――それが『残酷な世界』。
「人間の遺伝子は旧石器時代からさほど変わっていないのに、社会だけがすごい勢いで変わった。言語運用能力や論理数学的能力という一部の能力が高い人だけが有利な世の中になってしまった。
これは確かに不公平だし、お金を稼げる人、稼げない人という差は否応なしに出てしまいます。でも、だからといって社会が変わるのを待っていてもしょうがない。だったら個人レベルで生き延びる方法を探すしかない。それが僕の言いたいことです」
――その方法としてこの本で提唱しているのが「伽藍を捨ててバザールに向かえ!」「恐竜の尻尾の中に頭を探せ!」。詳細は読んでのお楽しみですが、その根底にあるのは、稼ぐことと幸福はイコールではないという思いですね。
「貨幣というものができたのはほんの1万年前くらいですから、人間の遺伝子は『金を稼ぐこと』で幸福感を得られるようにはできていない。人間は社会的な動物なので、『共同体の中で承認されること』に幸福を感じ、村八分にならず生き延びた個体が子孫を残してきたはずです。
だから、現代社会でも最低限暮らせるだけの金を稼ぎつつ、他者からの承認を得ることで幸福は感じられるはず。特にインターネットのある現代では、そんな生き方が最も現実的なんだと思います」
インタビュー:星野晋平(『週刊プレイボーイ』編集部)