先進国の学習到達度調査PISA(ピサ)はその順位が大きく報じられることもあってよく知られていますが、PIAAC(ピアック)はその大人版で、16歳から65歳の成人を対象として、仕事に必要な読解力、数的思考能力、ITを活用した問題解決能力を測定したものです。24カ国・地域において約15万7000人を対象に実施され、日本では「国際成人力調査」として2016年にその概要がまとめられています。
ヨーロッパでは若者を中心に高い失業率が問題になっていますが、その一方で経営者からは、「どれだけ募集しても必要なスキルをもつ人材が見つからない」との声が寄せられていました。プログラマーを募集したのに、初歩的なプログラミングの知識すらない志望者しかいなかったら採用のしようがありません。そこで、失業の背景には仕事とスキルのミスマッチがあるのではないかということになり、実際に調べてみたのです。
このテストは日本でも行なわれていて、その結果をまとめると以下のようになります。
- 日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない。
- 日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考力しかない。
- パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。
- 65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない。
「そんなバカな!」と思うでしょうが、これはAI(人工知能)に東大の入学試験を受けさせる「東ロボくん」で知られる新井紀子氏が、全国2万5000人の中高生の「基礎的読解力」を調査し、3人に1人がかんたんな問題文が読めないと指摘したことと整合的です(『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』)。これを疑わしいと感じるのは、あなたが知能が高いひとたちの集団のなかで生活しているからにすぎません。
さらに驚くのは、日本人の成績がこんなに悪いにもかかわらず、先進国のなかでほぼすべての分野で1位であることです。だったら他の国はどうなっているのかというと、平均は次のようになります。
- 先進国の成人の約半分(48.8%)はかんたんな文章が読めない。
- 先進国の成人の半分以上(52%)は小学校3~4年生の数的思考力しかない。
- 先進国の成人のうち、パソコンを使った基本的な仕事ができるのは20人に1人(5.8%)しかいない。
ヨーロッパの国を見ると、PIAACの結果は南が低く北に行くほど高くなります。ユーロ危機のときにPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシア、スペイン)と呼ばれ、財政が悪化し失業率が高く、右派や左派のポピュリズムに翻弄される「南」に対して、北欧など得点の高い国は、排外主義的な政党が勢力を伸ばしてはいるものの失業率は低く社会は安定しています。
「仕事に必要な問題解決能力(≒知能)」は個人によってばらつきがあると同時に、国によって大きく異なります。これが、私たちが直面している「事実(ファクト)」です。それをどう理解すればいいかを、新刊『もっと言ってはいけない』(新潮新書)で書きました。さまざまなご意見があるでしょうが、ご批判もふくめ、みなさまの評価を聞かせていただければ幸いです。
*PIAASの問題例や国際比較など、より詳しい説明は『文庫改訂版 事実vs本能 目を背けたいファクトにも理由がある』でしています。
『週刊プレイボーイ』2019年1月21日発売号 禁・無断転載