大学に進学せずに働く若者たちの声

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2019年5月公開の記事です(一部改変)。

kitzcorner/Shutterstock

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「学歴社会」である現代日本の最大のタブーは、「教育が格差を拡大させている」という不都合な真実だ。以下は福沢諭吉『学問のすすめ』の名高い一節だ。

人は生まれながらにして貴賤貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり。

これは一般には、「学問に勤めれば成功できる」という意味だと解釈されている。だが逆に言えば、「「貧人」「下人」なのは学ばなかった者の自己責任」ということになるだろう。「教育」の本質は「格差拡大装置」であり、福沢諭吉はそのことを正しく理解していた。

これまで2回にわたって、「ヤンチャ」「ヤンキー」と呼ばれる非大卒(軽学歴)の若者の生活を追った研究を紹介してきた。

参考:〈ヤンチャな子ら〉はどのような人生を歩むのか?
沖縄のヤンキーたちの(知られざる)世界

今回は(社)部落解放・人権研究所編『排除される若者たち フリーターと不平等の再生産』(解放出版社)から、大学に進学せずフリーターとして働く若者たちの声を紹介してみたい。

フリーターやニートはなにを考えているのか?

フリーターやニートが「怠けている」「自覚がない」などとバッシングされていた2000年代初頭、関西の社会学者らを中心に、その実態を知るべく「大阪フリーター調査」が行なわれた。本書はその記録で、2003年春から初夏にかけて40人の若者に話を聞いている。

この調査を主導したのは部落解放・人権研究所で、インタビューに応じたフリーター状況にある若者のなかには被差別部落出身者が多いが、「進学者だけでなく就職者や無業者が比較的多く出ている」大阪府立高校(進路多様校)からも生徒・卒業生を紹介してもらったという。

年齢は15~24歳、性別は男女20名ずつで、最終学歴(在学中も含む)は中卒が7名、高校中退が5名(うち定時制1名)、定時制および通信制高校在学中が4名、高卒が19名(うち定時制2名)、高卒後専門学校中退が1名、高卒後専門学校卒が1名、短大卒が2名、大卒が1名となっている。

序章の「フリーター研究の動向と本書の意義」(内田龍史・久保由子)で指摘されているが、大阪の部落の15~34歳の若年失業率(2001年)は9.1%と大阪府平均の7.6%より高い。とりわけ15~19歳の失業率は男が31.3%、女が20.6%で、高校に通っていない男子の3人に1人、女子の5人に1人に職がなかった。

部落の若者の高い失業率の一因として考えられるのが低学歴傾向で、最終学歴が中卒以下の者が20~24歳で18.2%(大阪府7.1%)、25~29歳で20.7%(同6.6%)、30~34歳で24.4%(同6.9%)となっている。

インタビューなかで、結婚差別を受けたり、直接面と向かって差別発言をされたという体験が語られてはいるものの、「部落出身であることが、進路選択に影響を与えたと語られる事例は少ない」とされる。

実際、部落出身者であるかどうかにかかわらず、若者たちの語りはとてもよく似ている。彼ら/彼女たちは「ホカチュウ」と呼ばれる他の中学の友だちとも積極的に交遊しており、そこに「部落出身」という意識は見られない。筆者たちが指摘するように、この本に登場するのはごくふつうの若者たちで、「ムラ」(多くの部落出身者は自分が居住する部落をこう呼ぶ)のネットワークによって、通常は大人が関係をつくることが難しい「軽学歴フリーター」へのインタビューが可能になったということだろう。

親は子どもを学校に行かせようとしていた

「遊びと不平等の再生産」(第3章)で社会学者の西田芳正氏は、「親によるコントロールの機能不全」について述べている。

家庭について訊くと、「「勉強ってあんまり言われへんかった」「しつけ? あまり言われない。覚えていない」という言葉が返ってくることから、西田氏は当初、親によるコントロールの欠如=放任主義が若者たちを遊びの世界に向かわせるのではないかと考えていた。だが、地域の親や若者たちの状況をよく知る女性から指摘を受けて、こうした解釈は修正を迫られることになる。

地域の世話役的なその女性は、西田氏にこう説明した。

(「あの親もこの親も」という形で対象者となった家庭を例示して)みんな「うるさい」ていうか、「やいやい」言う親やねんで。聞いてないねんやん、子ども達が。で、守らへんもん、家庭のルールなんて守らへんし。お母ちゃんの言うことなんか全然聞いてないもん。(略)何でそう言うんやっていう説明も親が子どもにしてないから、同じやねん。言っても言っても繰り返しで、別にどうってことないもん。」

実際、インタビューのなかでも次のような発言が頻出する(【 】内はインタビュアーの言葉)。

「門限とかめっちゃ厳しかったですよ。破りまくっていましたけど。【そうしたら、その度に。】めちゃめちゃ怒られましたね。【闘うというよりは、黙って聞いとくという感じ。】そんな感じですね。何言っても怒られるんで。ひたすら終わるまでじっと、すみませんみたいな感じでしたね。」[19歳・女性・高卒]

「最初のうちはだから「学校(高校)行けー」とかは言うてきましたけど、ね、やっぱり女の子じゃないんで。あのー、父親もね、もともと大阪の方の育ちだから、まぁ悪さをしてきた人間やから、まぁ「お前は好きなようにせぇ」と。」[20歳・男性・中卒]

親の多くは高卒以下の学歴で、自分たちが苦労してきたことから、子どもたちに強く説教し(場合によっては体罰を加え)学校に行かせようとするが、それでも「遊び」の世界に入っていくのを止めることができない。

これを受けて西田氏は、「家庭の貧困や勉強できないことへの不満が「遊び」の世界に入る際に大きな契機になっていないのではないか」と、貧困や学校教育に原因を求める「通説」に疑問を呈する。

若者たちは、中卒や高校中退の学歴が将来不利になることを親や教師からさんざん聞かされながらも、自らの「意思」でドロップアウトしていく。「その背景には、経済成長と福祉政策によって貧困層にもある程度の生活水準、豊かさが享受されていることが条件になっているのではないだろうか」と西田氏は述べている。

専業主婦への憧れと早婚傾向

「ジェンダー・就労・再生産」(第2章)では、内田龍史氏が女性フリーターへのインタビューを報告している。

彼女たちに特徴的なのは専業主婦志向で、19名中7名は将来的に専業主婦になることを希望、3名は結婚時もしくは子どもが生まれる際にいったん離職し、結婚後しばらくしてからパートなどで働きたいと述べ、結婚後も働きたいと答えた者は3名(うち正社員志向は1名)だった(残り6名は態度未定)。彼女たちは、たとえば次のように述べる。

「【(高校の時、卒業後は)バイトでいいと思っていたのね?】バイトでいいと思っていたし、何年も働かんわ、2年ぐらいしたら結婚していると思ってて…相手もおらんのにそう思っていて。【…どういう人生になるかなという話だけれども、やはり、結婚して専業主婦という感じだったの?】そういうのを描いていた。だから、卒業して2年ぐらいは適当にバイトをして、2年ぐらいたったら結婚して専業主婦になってと思ってた…【中学校ぐらいにもうこういうイメージはあったの?】中学校のときにもそれなりに結婚願望あった。【そういうときに、バリバリ働き続ける妻というのは…。】ない。全くない。【全くない?】ない。【今もない?】ない。(後略)」[20歳・女性・高卒]

「【結婚願望みたいなのは強い?】…あんまり働くこととか言ったら好きじゃないじゃないですか。専業主婦はいいなぁとか思いますけどね。【いずれ結婚したら、専業主婦みたいな形で、家事とか育児とかに専念みたいな感じがいいんかな?】うん。」[19歳・女性・高卒]

彼女たちのもうひとつの特徴が早婚傾向だ。多くが「年を取ったお母さんにはなりたくない」と考えており、次のような語りがその典型だ。

「【(専業主婦に)なるかなという話を友達同士で頻繁にしていたんですか?】してた…仲がよかった子が、みんなといっていいぐらいに結婚しているか、それか彼氏と同棲している…【仕事がないというより、結婚できないという焦りが…】ある。周りがみんなしているのもあるけれども、今、男がおらんのもあるし、男がおっても長続きしないし、だから余計に焦る…【同年代で知っている人はだいたい専業主婦志望?】うん。【私は働いていくとか、夫に食わしてもらうなんて嫌よとかはいないの?】いない。一人もいない…【最初の子どもを産む平均年齢が28だからね。だから全然遅くないよ。】へえ。28といったら高齢出産になるんじゃないかな…」[20歳・女性・高卒]

収入が安定している男性は魅力がない

そんな彼女たちの理想の結婚相手は「たくましい男性」で、収入が不安定なフリーターはもちろん、収入が安定しているサラリーマンや公務員などもまったく人気がない。

「サラリーマンとかは嫌や。【何で?】リストラとか嫌や…肉体労働をしている人のほうが好き。男らしいし。【好き!】…でも、何か男らしやん…大工さんとか。」[20歳・女性・高卒]

「サラリーマンとか営業マンはあんましな。【嫌?…】うん。嫌やけど。【工場とかで働いている人は?】も、嫌。【どういう人がいい?】土木関係とかかな。」[20歳・女性・高校中退]

「【現場で実際に汗流している人のほうがいい?】うん。【土方とか?】土方とか、そういう系が好き。やってる人が。【それは、どのへんが魅力なのかしら?】…たくましい。(略)【どうなんかな、ムラ中でネクタイしめてる人とかあんまり見いへんのかな?】うん…医者は嫌。【何で? 何かイメージ悪いん?】何か、嫌。【診療所の医者がいやとか、治療で痛い目あわされたとか?】違う。【何で? 白い服着てるから?】【えらそうにしてるとこかな?】何か、嫌。」[20歳・女性・定時制高校中退]

内田氏はこれについて「身近な職業モデルの限定性」を指摘する。それもあるだろうが、「男らしさ」への好みには個人差があり、仮に身近に事務職の男がいたとしても彼女たちの多くは魅力を感じないのではないだろうか。

もうひとつ、彼女たちに共通するのは性的に早熟なことだ。たとえば高校1年の女子生徒(15歳)は、両親も異性関係を知っているとしてこう語る。

「【お父さんは例えばどんなふうに話をしてくるのかな…学校とか仕事とか、結婚とか】別に付き合っても…今の子やったら普通にやるやん…やるやん、普通に…身体、するやん。それでも妊娠できへんかったら別にやったらいいんちゃうみたいな。妊娠できへんようにするんやったら別になんも言えへん…【彼氏との話が親にいって、親がそんな話すをする】付き合ってんのはいつかばれるやん。それで、「別に付き合っても子どもできんようにしぃや」みたいな。」[15歳・女性・定時制高校在学]

話を聞いたなかには、高校生のときに未婚のまま出産した女性もいる。

「16のときかな。友達の紹介で付き合った子がおって、ほんでその付き合った子の子どもをお腹にはらんでしまって、まぁ産む前に別れたんやけど。んで産んだと。17の5月くらいかなぁ。5月に子ども産んだと。だから子どもも別になんていうんかなぁ、ノリで産んだみたいな感じがあって。まわりの子らが産んでるから産みたいみたいなノリがあって。」[20歳・女性・高校中退]

さまざまな調査が示すように、高学歴の女性ほど長く働きたいと考え、結婚後も子育てしながら共働きを目指す。それに対して高卒・高校中退の彼女たちは「ガテン系」のたくましい男性と20代前半で(あるいは10代のうちに)結婚し、専業主婦になることを夢見ている。

現実にはそのような人生プランが実現することは少ないだろうが、そうなると母子家庭の生活を余儀なくされることになる。これでは「経済格差」はますます開いていくばかりだろう。

註:このような女性たちはその後、経済学者・周燕飛氏によって『貧困専業主婦』と名づけられた。

学校に行かなくなったのは「授業がわからない」から

「本当に不利な立場に置かれた若者たち」(第1章)では妻木進吾氏が、フリーターになった若者たちが進学しなかった理由をインタビューしている。「進学を希望したが経済的に余裕がなかった」とこたえる者もいるが、多くは学校に魅力がないからだ。

「就職したらお給料もらえるじゃないですか。それで学校行くより、お給料もらいながら働けば、家にお金も入れられるし、仕事も早く覚えるしじゃないですか。知り合いの人が学校に行ってて、学校に行ってるだけじゃあんまり意味ないって言われて、働きながらの方が絶対いいからって言われて、それやったら就職しようかなって。……普通の学校は試験に受かるためにだけにしか勉強せーへんから、サロン(現場)に出た時に何もできない人が多いんですよ。だから働いた方がいいって言われて」[19歳・女性・美容院に就職]

「【高校に上がる時点で、大学には行かんと思ってたんや。】あっもう絶対。【なんで?】なんでやろ。たぶん勉強が嫌いやったからやと思う。【大学入ってまで、また2年か4年勉強するのはかなわんなぁと。】かと言って働きたかったわけでもないんですけどね…(笑)」[19歳・女性]

高校に行かなかったり、中退する理由の多くは「授業がわからない」からだ。この生徒は小学校3年生の段階で授業内容が「意味わからへん」になっているが、聞き取りを行なった困難層になかでは「特別早いものではない」とされている。

「【小学校は楽しかったですか?】全然楽しくない。勉強がまず嫌いやった。…(嫌いな教科は)漢字とか国語とか。【いつぐらいから嫌いに?】…もう入って、意味分からへんかったから。【小学校に入ると字書くようになるよね? その時からちょっと辛い?】ムカついてた。…【授業中とかどうしてたん?】寝たりボーっとしたり、そんなマジメにせーへんかった。…【先生(が)嫌とかありました?】嫌いやった。【それは何でかな?】寝たら起こされるとか。(略)【…中学校に上がったらより一層勉強わけ分からん?】もう、分からへん。【中学校はどうしてたん?】1年の時はだいたい行ってたけど、2年からはもう行けへんくなった。…行くのがダルくなってきて(笑)。3年はほとんど行ってない。(略)」[16歳・男性・高校中退]

元高校教諭・青砥恭氏の『ドキュメント高校中退 いま、貧困がうまれる場所』(筑摩新書)によれば、少子化で多くの底辺高校は定員割れになっており、中学からの成績がオール1で、不登校の記録に300日あっても合格するという。LD(学習障害)のまま放置されて入学してきた生徒も少なくなく、受け入れる側の高校では「養護学校で適切な教育を受けた方が彼らを救えるかもしれない」と述べる教師もいる。

ここからわかるのは、「すべての子どもが努力して勉強し、大学を目指すべき」という現在の教育制度が、学校や勉強に適応できない子どもたちを苦しめているという現実だ。授業の内容がまったく理解できずに中学3年間を過ごせば、同じことを高校で3年やっても意味がないと思うだろうし、ましてや大学や専門学校に進学しようなどとは考えないだろう。

「教育は無条件に素晴らしい」という福沢諭吉以来の強迫観念を、わたしたちはそろそろ見直すべきではないだろうか。

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