2025年に(たぶん)起きること 週刊プレイボーイ連載(628)

2024年の米大統領選では、ドナルド・トランプと世界一の大富豪イーロン・マスクがタッグを組んだことに注目が集まりました。これは、わたしたちがどのような世界に生きているかを象徴する出来事かもしれません。

産業革命によって近代が始まると、身分によって人生が決まる社会が解体されました。この「リベラル化」はその後、人種や国籍、性別、最近では性的指向や性自認にも広がり、自らの意思で変えられない属性によって他者を差別することはものすごく嫌われるようになりました。

これはもちろん素晴らしいことですが、組織を維持・運営するためには、なんらかの方法で個人を評価し、採用や昇進・昇給を決めなくてはなりません。このとき、唯一公正な評価とされたのが「学歴・資格・実績」によるメリトクラシーです。なぜなら、これらは“努力”によって誰でも(その気になれば)獲得できるとされたからです。

遺伝的多様性がある以上、「やればできる」はたんなる“きれいごと”ですが、それを認めるとリベラルな社会が成り立たくなってしまうので、この事実は「言ってはいけない」としてずっと抑圧されてきました。しかし知識社会が高度化するにつれて、徐々に矛盾を隠蔽することが難しくなってきます。

人種問題を抱えるアメリカは、日本よりもはるかにメリトクラシーを徹底した社会で、大卒と高卒では生涯収入が倍もちがいます(大卒と高卒の日本の収入格差は男性で13%、女性で30%)。その結果、高卒や高校中退で工場などブルーカラーの仕事についたひとたちが、中流から脱落してしまいます。

こうした白人のワーキングクラスがトランプの岩盤支持層で、アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)で優遇されている(ように見える)黒人など有色人種や、マイノリティの側に立って白人の「特権」を批判する(主に白人の)高学歴のリベラルなエリートを敵視するようになりました。

ところがリベラルは、建前上は「貧しい労働者階級の味方」なので、この批判に正面から反論できません。そこで、「グローバル資本主義」や「構造的差別」が諸悪の根源だと主張しはじめます。その“悪”を体現するのが、天文学的な富をもつマスクのようなテクノ・リバタリアンです。

シリコンバレーのベンチャー起業家は、極端に高い論理的・数学的知能とアニマル・スピリットによって大きな成功を手にしました。そんな彼ら(その大半は男性)は、リベラルなエリートから、大きすぎる富をもつこと自体が不正であり、富裕税によってその富を国家が没収するのは当然だといわれて、強く反発しています。

このようにして、「アンチ・リベラル」の旗の下に、知識社会の最大の勝者と、「敗者」であるホワイト・ワーキングクラスが共闘するという、奇妙奇天烈なことが起きたのです。

リベラルの主張は「社会正義」なので、それを撤回することはもちろん、批判に対して妥協することもできません。そうなると、この「善と悪の戦い」は終わることなく、えんえんと続くことになります。

今年も、わたしたちはその混乱をあちこちで目にすることになるでしょう。

『週刊プレイボーイ』2025年1月6日発売号 禁・無断転載