アメリカの大学で、イスラエルの後ろ盾になっているバイデン政権に抗議するパレスチナ支持の運動が広がっています。
ニューヨークにあるコロンビア大学は、全米でもっともリベラルな大学のひとつですが、4月18日にテントを張ってキャンパスを占拠していた学生たちを大学側が警察を使って排除、100人あまりが逮捕されました。ところがこれによって抗議活動はさらに激化し、イェールなど東部の名門大学だけでなく、UCLA(カリフォルアニ大学ロサンゼルス校)やスタンフォードなど西海岸の大学でも占拠が始まり、40校でデモが起き2000人超が逮捕される事態になりました。
東部や西海岸のリベラルな大学は、社会正義(ソーシャルジャスティス)を求める学生たちの行動を一貫して支持してきました。BLM(ブラック・ライヴズ・マター)では、活動家たちは「白人は生れたときからレイシスト」で、警察を解体すべきだという過激な主張をしましたが、それに比べればイスラエル批判はずっと筋が通っています。
まずなによりも、ガザへの攻撃によって子どもを含む3万人以上の市民が死亡しており、国連が再三にわたって深刻な人道危機を訴えています。そのきっかけがハマスによるテロだとしても、イスラエルの攻撃は正当な報復をはるかに超えており、ICC(国際刑事裁判所)が戦争犯罪などの捜査を進めています(ネタニヤフ首相らに逮捕状が出るとの観測も浮上しています)。
イスラエルに対してはそれ以前に、国際的な人権団体であるHRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)とアムネスティが、パレスチナ人に対するアパルトヘイト(人種分離)を行なっているとの報告書を出しています。BLMはアメリカにおける「隠された人種差別」を告発しましたが、イスラエルでは明らかな民族差別が堂々と行なわれているというのです。
ところが不思議なことに、アメリカのリベラルな大学は「見えない差別」とたたかう運動にもろ手を挙げて賛同する一方で、学生たちが「(イスラエルの)見える差別」を批判するのを必死に抑えつけています。
その背景には、アメリカにおいてユダヤ人の権利団体が大きな影響力をもっていることや、私立大学がユダヤ系の富豪から多額の寄付を受けていることがあるのでしょう。大学当局は、BLMでは「レイシズムを容認するのか」と批判されることを恐れ、パレスチナ問題では「反ユダヤ主義」のレッテルをなんとしてでも避けようとしているのです。
2011年の「ウォール街を占拠せよ」では、2カ月にわたって路上や公園での座り込みが行なわれ、リベラルはこの運動を高く評価しました。ところが、若者の社会正義を鼓舞してきた知識人たちは、大学がわずか数日、占拠されただけで、(解体されるべきはずの)警察権力で非暴力の抗議運動を弾圧することを黙認しています。
「リベラル」を自称する者たちは、けっきょくは自分の保身しか考えていませんでした。大学占拠でパレスチナ問題が解決できるとは思えませんが、リベラルの欺瞞(きれいごと)とご都合主義を白日の下にさらしたことで、左派(レフト)の純真な若者たちの運動は十分な「成果」をあげたといえるでしょう。
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