岸田政権が支持率低迷で喘いでいます。統一教会問題や派閥の裏金疑惑など、「弱り目に祟り目」ばかり起きていますが、根本的な原因は実質賃金の低下、すなわち日本人がどんどんビンボーになっていることでしょう。
かつて「リフレ派」を名乗る経済学者らは、諸悪の根源はデフレだとして、日銀がどんどんお金を刷ってインフレにすれば日本経済は大復活すると大騒ぎして、日銀総裁を事実上の更迭に追い込みました。ところがどれほど量的緩和しても物価は上がらず、このままずっとデフレが続くと思ったら、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻にともなう資源価格の高騰など、中央銀行の政策とは関係のない理由で、2022年からでインフレ基調に変わります。
ところが、ようやくデフレから脱却できそうになったのに、岸田政権はガソリンに補助金を出すなどして物価を抑えようとします。しかしちょっと考えればわかるように、補助金の原資は税金ですから、その分、国民の負担が増えるだけでなんの意味もありません。
だったらなぜこんなことをするかというと、インフレを勘案した実質賃金が18カ月連続で前年割れを続けているからでしょう。食パンや野菜といった購入頻度の高い商品の上昇率は8%に達し、「体感物価」は消費者物価指数よりもずっと悪化しています。電気・ガス代を含めれば10兆円規模の補助金で物価を無理矢理抑えなければ、実質賃金はさらに下がり、デフレ脱却以前に政権が崩壊してしまうのです。
経済学の購買力平価説によれば、相対的に物価が低い国の通貨が上昇するはずですが、実際には高インフレのドルが高くなり、低インフレの円が安くなって、一時は1ドル=150円を超える「超円安」が騒がれました。
その結果、輸入品が高くなるだけでなく、「安いニッポン」に海外から観光客が押し寄せています。1980年代のバブル最盛期に東南アジアに行くと、高級ホテルや高級レストランにいるのは白人と日本人だけでしたが、いまでは国内の5つ星ホテルや3つ星レストランは外国人旅行者でいつもいっぱいです。当時、東南アジアは「発展途上国」と呼ばれましたが、いまでは立場が逆転して日本は「衰退途上国」です。
生活が苦しくなる一方の国民の不満を抑えるために、岸田政権は賃金を上げようと企業に圧力をかけています。これは本来「革新」派の労働組合がやるべきことですが、日本では政府が率先して「組合活動」をしているのです。それに加えて税収増の国民への還元や、多子世帯の大学無償化など、野党が主張してきた政策を次々と採用しているのですから、まるで「あべこべ世界」に迷い込んだようです。
こうした懸命の努力にもかかわらず支持率が上がらないのは、国民がその先に増税や社会保障費の負担増が待ち構えていると恐れているからでしょう。2025年から、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる本格的な超高齢社会が始まります。それを考えれば、一時的な人気取り政策で喜んではいられません。
「増税メガネ」と岸田首相を揶揄するメディアがいわないのは、人口構成は構造問題だということです。首相が代わっても、あるいは野党に政権交代しても、日本社会は「高齢者が多すぎる」という困難な問題を突きつけられることになるのです。
『週刊プレイボーイ』2023年12月18日発売号 禁・無断転載