ウクライナ紛争をどのように終わらせるのか 週刊プレイボーイ連載(565)

G7広島サミットはウクライナのゼレンスキー大統領が急遽参加し、世界の注目を集めました。その意味では成功といえるでしょうが、ウクライナの置かれた状況を考えれば、ゼレンスキーがたんなる儀礼のために訪日したわけではないとわかります。

ロシアがウクライナに進行してから、すでに1年が過ぎました。当初は1~2週間でキエフが陥落し、ロシアが傀儡政権を立てると予測されていたことを思えば、ウクライナの抵抗には驚嘆すべきものがありますが、それも欧米の支援があってこそです。ただし、この戦争をどのように終わらせるかについては、まったく目途がたっていません。

これまで明らかになったことは、ロシアにはウクライナ全土を占領するほどの軍事力はないものの、欧米による経済制裁の効果は限定的で、戦争の長期化にも耐えられることです。それに対してヨーロッパは、ロシアからの天然ガス供給が滞ったことで光熱費が高騰し、物価高に抗議するデモで政権が動揺しています。中国の景気回復で今年の冬にさらなるエネルギー資源の逼迫が起これば、もともとプーチンに親近感を抱いていた欧州のポピュリストは、ウクライナ支援はもう十分だといいだすかもしれません。

バイデン政権はロシアと中国を“仮想敵”として国内をまとめようとしているため、ウクライナへの武器供与を継続するでしょうが、来年秋の大統領選の結果如何ではそれもどうなるかわかりません。トランプが復活するようなことがあれば、「アメリカファースト」を掲げてウクライナ支援から手を引くかもしれないからです。

さらに、頼みの綱のバイデン政権も、ウクライナがロシア本土を攻撃することはもちろん、クリミアやドンバスを奪還することまで望んでいるとは思えません。ロシアが核兵器を保有しているからで、追い詰められたプーチンが戦術核を使用して形勢を逆転しようと試みれば、なんらかの対処をせざるを得なくなります。とはいえ、ロシアへの軍事的な懲罰は、世界最終戦争(人類の滅亡)の引き金になる可能性があり、選択肢は限られています。

そのように考えれば、現状のまま戦況を膠着状態にして、ロシアの実効支配を事実上容認するかたちで休戦にもちこむしかなさそうです。いわば朝鮮戦争方式で、両国が名目上は戦争を継続したまま、現状を国境として棲み分けるのです。

もちろんこれでは、一方的に侵略されたウクライナは納得できないでしょうが、休戦と同時に欧米が大規模な経済援助を行なうことを約束し、10年後、あるいは20年後には西欧並みのゆたかさが手に入るという希望をひとびとがもてるようにします。これは荒唐無稽な話ではなく、いまだに世界の最貧国に沈んだままの北朝鮮に対して、韓国の生活水準は先進国に並びました。ウクライナがゆたかになればなるほど、ロシアに実効支配された地域の住民たちは、ウクライナへの併合を求めるようになるでしょう。

これがもっとも現実的なプランに思えますが、それを実現するためにも、ウクライナはあと数年は欧米の軍事支援をつなぎとめる必要があります。ゼレンスキーはこれからも、世界を駆け巡ってウクライナの苦境をアピールし続けなくてはならないでしょう。

『週刊プレイボーイ』2023年6月5日発売号 禁・無断転載