誰もが安心して過ごせる一年になりますように 週刊プレイボーイ連載(548)

昨年(2022年)の今頃は、コロナ禍も終息に向かい、米大統領選やEU離脱の国民投票のような大きな政治イベントもないので、久しぶりに落ち着いた1年になると思っていました。ところが2月末にロシアがウクライナに侵攻し、世界は大きく変わってしまいました。

専門家の多くはこの事態を予想できませんでしたが、だからといって間違っていたということはできません。軍事専門家の予測どおり、ロシアの侵攻は大失敗になっているからです。

4000万を超える人口と広大な国土をもつ国を短期間で制圧し、傀儡政権を樹立することが不可能なのは軍事の常識でした。「合理主義者」だったはずのプーチンが、とんでもなく不合理な判断をするとは誰も思わなかったのです。

昨年12月にウクライナがドローンでロシアの防空網をかいくぐり、首都モスクワまで200キロのところにある空軍基地を攻撃したことで、戦況は新たな局面を迎えました。ロシアもウクライナも交渉による解決を望むとは思えず、ウクライナ危機は数十年続くと予想する専門家もいます。

たとえそうなっても、中国やインド、新興国はロシアの安い原油・天然ガスを輸入するでしょうから、財政破綻はなさそうですが、プーチン政権が続くあいだは国際社会から排除されることは間違いないでしょう。仮にプーチンが失脚しても、ウクライナに謝罪して莫大な賠償金を支払うことはできず、より右翼的な政権が登場する可能性が高そうです。

もうひとつの不安要素は、ゼロコロナ政策が「成功」していたはずの中国で、民衆の不満から規制をゆるめたとたん、感染が急拡大していることです。

オーストラリアやシンガポールのように、ゼロコロナからウイズコロナへと移行した国があるなかで、なぜ中国は政策変更しないのか批判されましたが、14億の人口と脆弱な医療体制を考えれば、それ以外の選択肢がなかったというのが実情でしょう。――公衆衛生の専門家は、ゼロコロナを緩和すると200万人の死者が出ると予測しています。

それに加えて中国では、不動産バブルが崩壊しつつあり、住宅ローンの支払い拒否が広がっています。バブル期の日本と同じく、地価はずっと上がりつづけると信じられていた中国では、家族や親戚に借金し、多額の住宅ローンを組んでマイホームを買うのが、庶民にとっての唯一の資産形成法でした。地価が下落すれば破産者が続出し、大きな社会的混乱が起きることは避けられません。

ウクライナ危機でエネルギー・穀物価格が上がり、中国の景気低迷で世界経済が失速すると、もっとも大きな影響を受けるのは一人当たりの所得の低い新興国です。すでにスリランカやペルーで政権が転覆しましたが、こうした事態が相次ぐかもしれません。

とはいえこれらはみな、いまある材料から(浅知恵で)予測したことで、未知の感染症や戦争の勃発に匹敵するブラックスワン(原理的に予測不能の現象)がまた起きることも考えられます。誰もが安心して過ごせる一年になることを祈るばかりです。

『週刊プレイボーイ』2022年12月26日発売号 禁・無断転載