「自民は若者の党」「立民は高齢者の党」の不思議 週刊プレイボーイ連載(498)

コロナ禍のなかでの衆院選は、安倍―菅の「ネオリベ」路線から「新しい資本主義」へと看板を架け替えた自民党が、大物議員の落選はあったものの、単独で国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」を確保しました。その一方で、議席増確実とされていた立憲民主党は逆に選挙前を下回り、敗北の責任をとって枝野代表が辞任しました。

出口調査からわかるのは、前回(17年)の選挙と比べて、立民が無党派層の投票を減らしたのに対し(30.9%から24.6%)、8.5%だった日本維新の会が20.9%へと無党派層から支持されたことです。選挙前は、「自助」を求める菅政権への反発から、(与党も含め)どの政党も「公助(分配)」を強調しましたが、こうした「ばらまき」から一線を画した維新が議席4倍増と躍進したのは示唆的です。

より興味深いのは年代別の投票傾向で、18~19歳は36.3%が自民に投票し、立民の17.2%の倍です。20代も36.7%が自民に投票しており、安倍政権以降、一貫して若者から安定した支持を得ていることがわかります。

それに対して立民は60代の31.4%、70代の35.6%が投票し、自民(60代30.5%、70代31.6%)を上回っていますが、10~30代ではいずれも20%に達しません。この結果をひと言でいうなら、「自民は若者の党」「立民は高齢者の党」になるでしょう。

保守主義は「今日は昨日と同じで、明日は今日と同じ」という思想で、「文化や伝統にはそれが生まれた必然(価値)があるのだから、むやみに変えてはならない」と考えます。それに対してリベラル(進歩主義)は、「今日は昨日よりもよく、明日は今日よりもっとよくならなければならない」という思想で、伝統を旧弊と否定し、大胆な改革によって「よりよい社会」「よりよい未来」を目指します。

歴史を振り返っても、既得権を守りたい高齢者は保守主義になり、失うもののない若者は改革を求めました。ところが日本では、「リベラル」を自称する政党が高齢者から支持され、「保守」とされる政党に若者が投票する逆転が起きています。若者にとっての「改革(リベラル)政党」は維新や自民であり、立民は「保守政党」 なのです。

この奇妙な現象は、日本社会における「リベラル」は高齢者の既得権を守ることだと考えるとすっきり理解できます。立民の支持母体である連合は労働者の団体ではなく、(中高年)正社員の「身分」を守るための組織です。だからこそ、正規と非正規の「身分格差」をなくそうとする「働き方改革」に頑強に抵抗し、「(正社員の)雇用を守れ」と大騒ぎしたのです。

いまや新聞・テレビの読者・視聴者の大半が団塊の世代の後期高齢者になりました。こうしたマスメディアが「リベラル」を自称し、「ネオリベ」的な改革に反対するのも、高齢者の利益に反する主張ができないからでしょう。

日本の政治における「保守」と「リベラル」の逆転は安倍政権の頃から指摘されてきましたが、いまだに自分を「リベラル」だと錯覚しているひとたちはこの事実を認めることができず、「リベラル政党」が若者から見捨てられている事実(ファクト)をなにかの「陰謀」だと信じているようです。

参考:「無党派層24%が立民」日本経済新聞2021年11月1日

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