総務省の「会食疑惑」は、事務次官候補とされていた総務審議官が辞職するなど、底なしの様相を呈しています。内閣人事局の集計では、利害関係者との会食の届け出は、経産省や農水省では過去3年間で300件前後もあるのに、総務省は1件だけでした。
国家公務員倫理規定では、割り勘でも1人1万円を超える利害関係者との会食は届け出が必要とされています。とはいえ、業者から会食に誘われたときに1人1万円を超えるかどうかは知りようがなく、会食後に相手から「割り勘で1万円です」といわれたら、その計算が正しいかどうかも確認のしようがありません。総務省ではこの理屈で、「1万円さえ払えば接待OK」が常態化していたようです。
こんないい加減では批判されて当然ですが、会食ばかりをバッシングすると、「会食しなければいい」ということになりかねません。これが本末転倒なのは、「飲食をともなわない密室で談合するのは許されるのか」を考えれば明らかでしょう。
報道ではほとんど触れられませんが、問題なのは会食や接待ではなく、行政が民間の事業に対して強大な許認可権をもっていることです。旧大蔵省が金融機関の箸の上げ下ろしまで指導していたときは、MOF担という「お世話係」が大銀行のエリートコースで、高級官僚をノーパンしゃぶしゃぶなどで接待していました。認可が得られれば儲かり、拒否されれば会社がつぶれてしまうのなら、どんなことでもやろうとするのは当然です。
電波帯域は有限なので、テレビ局や通信会社は自由に事業に参入できるわけではなく、総務省から電波帯を割り当ててもらわなければなりません。これはまさに事業の根幹ですから、民間企業は電波資源を独占する総務省の一挙手一投足に右往左往せざるを得ません。この利権があるからこそ、高級ワインも飲めるし、定年後も天下りで優雅に暮らすことができるのです。
「7万円の接待などけしからん」と本気で思うなら、この利権構造をなくすのがいちばんです。なんの役得もないならそもそも接待などしないでしょうし、それでもおごるとしたらただの友だち関係です。
電波帯域の割り当ては、先進国ではオークション方式で行なわれ大きな財源になっていますが、日本だけは頑強に導入を拒んでいます。その理由は、オークションでは許認可が不要になるからでしょう。その実態がようやく国民の目に触れたのですから、この機会に、接待の必要のない公正でオープンな行政の仕組みに変えていけばいいのです。
だったらなぜ、そうした議論にならないのか。それはテレビ局が、オークションをやらないことで、稀少で高額な電波枠を格安で利用できる「既得権」を享受しているからです。日本の新聞社はテレビ局の大株主で、それに加えて自分たちも、値引きを禁止する再販制や、消費税の軽減税率などの恩恵を受けています。
そう考えれば、アワビやステーキだけを面白おかしく報じ、本質的な議論を避ける理由がわかります。日本のマスメディアは、新聞もテレビも、本音では行政の利権構造を維持することを望んでいるのです。
『週刊プレイボーイ』2021年3月29日発売号 禁・無断転載