2001年、日本政府は「e-Japan重点計画」を策定し、「世界最高水準」の電子政府を目指すと高らかに宣言しました。2013年には「世界最先端IT国家創造宣言」で、力強いIT戦略を打ち出してもいます。
政府・自治体を合わせると、国民がITシステムに支払っている経費は年間1兆円をゆうに超えています。では、20年間で20兆円を投じた見返りに、わたしたちはなにを得たのでしょうか。
一律10万円を配布する特別定額給付金は、マイナンバーカードを使うオンライン申請で混乱が相次ぎ、1カ月で40を超える自治体が受付を取りやめ手作業に戻りました。申請者の入力ミスや二重申請をチェックする基本的な機能がなく、オンラインでの申請が正しいかを人力で確認するほかなかったからだといいます。
雇用調整助成金のオンライン申請システムは、申請者の名前や電話番号など個人情報を他の申請者が閲覧できてしまう信じられない不具合が見つかり、2カ月ちかく稼働が止まりました。
売上が減った個人事業主や中小企業を対象にした持続化給付金は経済産業省と中小企業庁が全手続きを申請用サイトに一本化しましたが、『日経コンピュータ』編集部によれば、標準的な開発費の見積もりで3865万円、緊急時を想定した最大規模のモデルでも4億8489万円でできるシステムにもかかわらず、ベンダーに14億円も支払っていました。これではまるで火事場泥棒です。
「新型コロナ対策に焦点を絞った、感染者情報を管理する新システム」として副大臣の肝いりで始まった「HER-SYS」は、保健所などの業務負担を減らしつつ感染者情報を迅速に把握できると期待が高まりましたが、個人情報保護の機能が足りないなどの理由で一部の自治体が導入を見合わせ、対応が終わるまで4カ月かかりました。その後も、患者1人あたりの入力欄が200もあり、必須項目の判別もできないなど、かえって負担増になっているとの苦情が医療機関や保健所から殺到し、誤入力が相次ぎました。
感染抑制の切り札とされた「接触確認アプリCOCOA」は、陽性者と接触しても通知されない致命的な欠陥が4カ月も放置され、影響は利用者の3割に及びました。その後もAndroidのスマホでは1日1回起動しないと正常に動作しないなど、通常のアプリでは考えられないようなことになっています。
以上をまとめると、「コロナ対策で政府が行なったDX(デジタルトランスフォーメーション)はすべて失敗」ということになります。企業ならとっくにつぶれているでしょうから、ここまでのていたらくはなかなかできることではありません。
平井卓也デジタル改革相は、「日本ほどの通信インフラを持たない国がITで(コロナ対策の)成果を上げたのに、日本は過去のインフラ投資やIT戦略が全く役に立たなかった。「敗戦」以外の何者でもありません」と述べています。
3.11のとき、野党だった自民党は民主党政権の危機管理能力のなさをきびしく批判し「悪夢」と呼びましたが、自分たちが有事に直面したら「敗戦」になったという、国民にとっては笑えないオチになったようです。
参考:日経コンピュータ『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』(日経BP)
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