わたしたちは「どんどんよくなる」素晴らしい世界を生きている(らしい) 週刊プレイボーイ連載(459)

「今年はどんな年になるだろうか?」を考えると、やはり新型コロナの話になってしまいます。欧米ではワクチン接種も始まりましたが、日本での接種は早くても2月とされており、新興国はさらに遅れるでしょうから、東京オリンピックの時期は別として、年末になってもコロナ前のような海外との自由な行き来は難しそうです。

専門家の多くは、ワクチンができたとしても、「正常化」までには2~3年かかると考えているようです。その間、世界と日本はどのように変わるのでしょう?

はっきりしているのは、先進国で大きな社会問題になっている経済格差がさらに拡大することです。

未知の感染症が流行しているなかでは、パーティや会食、旅行などの「不要不急」の支出は控えられますが、日々の生活費は家計から出ていきます。その一方で収入はというと、医療・福祉、サービス業などに従事しているエッセンシャルワーカーの雇用は大きく減ったものの、リモートワークに適した仕事に就いている高度専門職や、株式などの資産からの収入で働く必要がない富裕層はほとんど影響を受けていません。

これをまとめると、富裕層は「収入が変わらず支出が減った」のに対し、貧困層は「支出が変わらず収入が減った」になります。その結果、富裕層の貯蓄がどんどん増えているのに、もともと貯蓄のない貧困層の家計はますます苦しくなっているのです。これはアメリカの話ですが、日本を含む世界のどこでも同じことが起きているでしょう。

もうひとつ明らかなのは、デジタル化が急速に進み、それが社会を動かしていくことです。すでに日本でも、「満員電車に揺られて長時間通勤」という当たり前だった光景が過去のものになりつつあり、アメリカのIT企業では「出社」そのものをなくしてしまうところも出てきました。それにともなって、戦後の日本人を呪縛してきた「新卒でたまたま入った会社に40年間滅私奉公する」という働き方(というか人生そのもの)が変わっていくかもしれません。

ただし、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応できるのは、仕事の役割分担がはっきりしている専門性の高い仕事だけです。新型コロナは経済格差だけでなく、「デジタルデバイド」の現実をも白日のもとにさらすことになるでしょう。

とはいえ、暗い話ばかりではありません。驚異的なテクノロジーの発展によって、いまでは「より少ない資源でより多くのものをつくる」ことが可能になりました。1991年の家電量販店の広告に掲載されていたカメラ、ビデオカメラ、ラジオ、携帯電話、テープレコーダーなどの家電製品に加えて、GPSや大量の地図、CDまでが、わずか30年後には1台の小さな機械(スマホ)に収まっています。これは控えめにいっても驚くべき進歩です。

こうした「脱物質化」が、いまやあらゆる分野で起きています。この驚異を実現したのが高度化する資本主義とテクノロジーで、経済格差の拡大やデジタルデバイトはその負の側面にすぎません。そのことをとりあえず脇に置いておくのなら、わたしたちは「どんどんよくなる」素晴らしい世界を生きているようです。

参考:アンドリュー・マカフィー『MORE from LESS(モア・フロム・レス) 資本主義は脱物質化する』 日本経済新聞出版

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