2028年にアメリカに「左派ポピュリズム」の大統領が誕生する? 週刊プレイボーイ連載(4532)

歴史的な大接戦となったアメリカ大統領選はバイデンが勝利宣言しましたが、トランプはまだ敗北を認めていません。決着までにはしばらくかかりそうですが、それでも米紙ニューヨークタイムズの出口調査ではいくつか興味深い傾向がわかってきました。

ひとつはラティーノ(中南米からの移民)のトランプ支持が予想外に多いこと。男性は36%(バイデン支持61%)、女性は28%(同70%)ですから、「メキシコとの国境に壁をつくる」という大統領に、その壁の向こう側にルーツのあるひとたちの3分の1が投票したことになります。

「キューバやベネズエラから逃れてきた移民には社会主義への拒否感がある」「熱心なカトリック信者が多く人工妊娠中絶に反対」などともいわれますが、それよりも「(選挙権のある)合法な移民は不法移民をこころよく思っていない」の方が説得力があります。

米国の市民権を取得したラティーノの多くは低賃金の仕事に従事しています。ルーツが同じだからといって、(仕事で競合する)不法移民に市民権を与えようとする民主党の政策に必ずしも同意するわけではないのでしょう。

さらに不可解なのは、「人種差別主義者」であるトランプへの黒人票が4年前より増えていることです。出口調査ではトランプに投票した黒人女性は8%(バイデンは91%)ですが、黒人男性は18%もいます(同80%)。アメリカ全土に燎原の火のように広がったBLM(黒人の生命も大切だ)の抗議行動にもかかわらず、黒人男性の5人に1人はトランプを支持しているのです。

これについても諸説ありますが、そのなかでも説得力があるのは「オバマ時代の8年間でも黒人の暮らしはまったくよくならなかった」でしょう。だったらオバマの副大統領だったバイデンも同じで、トランプの方がまだ期待できると考えたのかもしれません。メディアはトランプに「レイシスト」のレッテルを貼ることに夢中になりすぎて、現実を見失ったようです。

ラティーノと黒人票の獲得でトランプが予想外の健闘を見せたのに、なぜバイデンは「史上最多」の得票数になったのか。それは若者から圧倒的な支持を受けたからです。18歳から29歳の有権者では、62%がバイデンに投票したと回答しています(トランプは35%)。

とはいえ、穏健なリベラルであるバイデンの政策が若者たちの心をとらえたわけではないでしょう。彼ら/彼女たちの本音は「トランプでなければ誰でもいい」で、民主党の予備選ではより過激な左派(ラディカルレフト)のバーニー・サンダースを支持していたはずです。

かつては「若者は改革志向のリベラルで、年をとるほど保守的になる」とされましたが、近年では「若いときの政治傾向は年齢にかかわらず一貫している」と考えられるようになりました。だとすれば、高齢者層が退場し、より若い有権者が加わることで、アメリカ社会は急速に「リベラル化(左傾化)」する可能性があります。

今回はトランプに投票した、現状に不満をもつ黒人やラティーノなどマイノリティが、こうした理想主義の若者たちに合流することも考えられます。だとすれば、4年後は無理でも8年後の大統領選では、アメリカに「左派ポピュリズム」の大統領が誕生しても不思議ではないと「予言」しておきましょう。

参考:National Exit Polls: How Different Groups Voted(The  New York Times)

『週刊プレイボーイ』2020年11月16日発売号 禁・無断転載