新型肺炎「クルーズ船」対策はすべて素人の思いつき? 週刊プレイボーイ連載(422)

政府の新型肺炎対策が混迷をきわめています。感染拡大にいまだ収束の見通しは立ちませんが、現時点でわかったことをまとめておきましょう。

クルーズ船の対応で官房長官は「感染防止を徹底」と胸をはりましたが、結果は死者7名、感染者約700名にのぼりました。同様の状況にあったクルーズ船から乗客を下船・自由解散させたカンボジアは「中国におもねっている」とさんざん批判されましたが、その後、確認された感染者は1名です。どちらが正しかったかは議論の余地すらなく、非人道的な環境で長期間拘束された乗客・乗員はほんとうにかわいそうです。

春節の時期に多くの中国人観光客を受け入れたことも批判されています。アメリカのように中国全土からの入国禁止を徹底していれば感染拡大を防げたというのです。

「政治は結果責任」ですからどちらも大失態でしょうが、このウイルスが未体験であることを考えればいちがいに責めることもできません。感染の恐怖が広がるなかでの下船の決断は困難だったろうし、習近平の来日を控え、中国人を差別しているかのような対応も躊躇せざるを得なかったのでしょう。

「クルーズ船から1人も降ろすな」と大騒ぎしていたひとたちが、乗客を公共交通機関で自宅に帰したことで掌を返したように罵詈雑言を浴びせた姿を見ると、逆に政治家や官僚に同情したくもなります。自分は文句ばかりいって、なんでもやってもらえると思っている国民ばかりなら、ふつうならすべてを投げ出したくなるでしょう。

しかしそれでも、政府の対応に問題がないわけではありません。

最大の疑問は、現在に至るまで厚労省の指揮系統がまったくわからないことです。厚労大臣は国立大学経済学部卒の学士で、クルーズ船内で陣頭指揮をとったとされる厚労副大臣も、経歴を見る限り医学のなんの専門知識もありません。意思決定する政治家は「素人」の集団です。

そうであれば、厚労省内にいる(はずの)感染症対策の専門家集団が政治家を補佐し、感染の状況とか、全国一斉休校のような措置をなぜとるのかを、科学的根拠(エビデンス)に基づいて説明すべきです。そうしたことをいちども行なわず、匿名の「厚労省幹部」なる人物がメディアで好き勝手なことをしゃべるだけなら、国民が疑心暗鬼になるのも無理ありません。

これまで繰り返し指摘してきたことですが、日本の組織の特徴は「ゼネラリストを養成する」との名目で専門性を軽視し、結果として素人ばかりを生み出してきたことです。役所はその典型で、厚労省では2019年の統計不正問題で、統計の専門部署に初歩的な統計の知識をもつ人間すらいないという驚くべき事実が白日の下にさらされました。

いったん「素人」が組織を支配するようになると、専門性は徹底的に忌避されるようになります。専門家に権限をもたせると自分になんの知識もないことが暴露され、「素人支配」が崩壊してしまうのですから。

このようにして、政府や厚労省の大混乱の背景が見えてきます。恐ろしいことに、新型肺炎をめぐる一連の出来事は、「すべて素人が思いつきでやっている」と考えるとすっきり理解できるのです。

参考:厚労省が失態を繰り返すのは「素人」だから

『週刊プレイボーイ』2020年3月9日発売号 禁・無断転載