「反社のパーティだと気づいたら毅然と帰ればいい」はいったい誰ができるのか? 週刊プレイボーイ連載(392)

芸人が反社会的勢力(反社)のパーティで「闇営業」していたことが大きな騒ぎになっています。とはいえ、いったいどこに問題があるのかよくわかりません。

まず、事務所に所属する芸人の労働者としての地位があいまいです。会社に所属するサラリーマンと同じと考えれば、無断で営業する行為は禁じられるべきでしょう。しかしその場合は、事務所(会社)は芸人(社員)の生活給を保証しなければなりませんが、そんなふうになっているとは思えません。

だとすれば、芸人は自営業者で、本来は自分でやるべきマネジメント(営業)の一部を事務所に外注していることになります。この場合は、芸人(自営業者)が自ら営業して仕事を取ってくるのは「闇」でもなんでもなく当たり前のことです。

報道を見るかぎり、形式上は、芸人は事務所を通した仕事以外受けてはならないが、生活給は保証しないという契約になっているようです。しかし、そもそも「生きていけない(生活できない)」ことを前提とする独占契約は一種の奴隷制で、人権の観点から大きな問題があります。

「闇営業」を批判するひとは、「契約どおり事務所経由の仕事だけしていればいい」といいますが、これは「事務所が生活できるだけの仕事を取ってくる」ことが前提になっています。そんなことはとうてい不可能なので、これまで「闇営業」が黙認されてきたのでしょう。

今回は、知人の伝手などで反社のパーティに参加し謝礼を受け取っていたことが問題になりました。これが事務所の仕事であれば芸人に責任はありませんが、代わりに事務所の違法行為が問われます。そう考えると、事務所は「闇営業」を黙認しているというより、積極的にやらせているのではないかとの疑問が出てきます。リスクの高い小さな仕事を会社として請け負ってもなんのメリットもないのですから。

「反社だとわかったら仕事を断ればいい」というひともいますが、「景気のいい会社」と「景気のいい反社会的勢力」を見分けるのは容易ではありません。1980年代末の好景気では不動産業界の「バブル紳士」が札びらをばらまいていましたが、その多くは裏で組織暴力団とつながっていました。「芸能人にぽんと大金を出すような(景気のいい)ところはみんなグレイかブラック」というのは常識で、これはいまでもたいして変わっていないのではないでしょうか。

「反社のパーティだと気づいたら毅然と帰ればいい」というひともいますが、そんなことをすれば芸人を呼んだ相手の面子をつぶすことになります。ヤクザの世界では、メンツをつぶされて黙っていることはありませんから、当然、報復を覚悟しなければなりなせん。誰も守ってくれない芸人にこんな決断を要求するのは酷ではないでしょうか。

ここでいいたいのは、批判されるべきは反社会的勢力であって、(大半は知らずに)パーティに参加した芸人ではないということです。

姦淫した女を「打ち殺せ」と叫ぶひとびとに、「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」とイエスはいいました。

『週刊プレイボーイ』2019年7月16日発売号 禁・無断転載