国内の騒がしい出来事にかき消されてしまいましたが、海外から興味深いニュースが流れてきました。
6月5日に行なわれたデンマークの総選挙で、社民党のフレデリクセン党首が率いる「左派陣営」が過半数を得て政権交代が実現しました。――フレデリクセン党首は41歳で、デンマーク史上最年少の女性首相が誕生しました。
デンマークはこれまで、中道右派の自由党が国民党の閣外協力を得て政権を運営していました。国民党創設者のピア・クラスゴーは「ムスリムがヨーロッパに侵入し、ヨーロッパ人の民族浄化を企んでいる」「文明人はヨーロッパ人だけ、他はすべて野蛮人」などと主張する排外主義者で「極右」と見なされています。
このような差別的な政党が加わる政権を倒したのですから、リベラル派はこの勝利に大喜びするはずです。――と思いきや、誰もこの話には触れようとしません。
なぜそうなるかは、選挙結果の解説を読めばわかります。例えば朝日新聞は、「デンマーク総選挙 左派陣営が過半数」(2019年6月7日朝刊)でこう書いています。
「(社民党の)フレデリクセン氏はかつて、右派政権の移民政策を「欧州で最も過酷」と批判してきた。しかし、移民に比較的寛容な社民党の姿勢が他党から弱腰批判を浴びて支持者離れを招き、前回の総選挙で敗北。その後、党首になったフレデリクセン氏は、右派政権が打ち出す厳しい移民政策の賛成に回るようになり、与党側は攻撃の材料を失った」
ここからわかるのは、リベラル派が極右を倒したのではなく、左派政党が排外主義的な政策を丸のみしたことで右派の票を奪うことに成功したという経緯です。いわば「左派が極右に変身した」わけで、これでは「リベラルの勝利」と喜べないのは当然です。
左派陣営の成功の理由は、移民問題で極右と同じ強硬な主張をしつつ、福祉の充実などを訴えたことだといいます。これは要するに、「外国人(移民)は出て行ってもらって、デンマーク人だけで高福祉の夢の国をつくろう」という主張でしょう。まさに極右と極左が合体した異形のポピュリズムです。
「世界でもっとも幸福な国」とされるデンマークの洗練された有権者が、このような政党に喜んで票を投じたことにこの話の怖さがあります。
老後に備えた自助努力の必要を説いた金融庁の報告書が大炎上したように、超高齢社会の日本では年金への不安が広がっています。同性婚や夫婦別姓などでひとびとの価値観は「リベラル化」していますが、「反日」を罵倒し隣国へのヘイト発言を繰り返す「日本人アイデンティティ主義」も相変わらず健在です。これは左派と右派が対立しているのではなく、「嫌韓」の愛国者がそれ以外のことではリベラルになっているのです。
そう考えれば、令和の日本でどのような政治勢力が台頭してくるかが予想できます。
それは「愛国」と「嫌韓・反中」を唱える「リベラル」政党であり、年金不安をなくすために国民にお金をばら撒くことを約束するポピュリスト政党でしょう。
これは日本だけのことではありません。いずれ世界じゅうが、こうした異形のポピュリズムによって支配されることになるかもしれません。
『週刊プレイボーイ』2019年7月1日発売号 禁・無断転載