性暴力をめぐる司法判断に怒りの声が広がっています。
ひとつは福岡地裁久留米支部の判決で、一気飲みで眠り込んだ女性と性交した男が準強姦罪に問われました。裁判官は、女性は酩酊し「抗拒不能(意思決定の自由を奪われ、抵抗することが困難な状態)」だったと認めたものの、明確な拒絶の意思がなく男性が「女性が許容している」と誤信してもやむを得ないとして無罪としました。
もうひとつは名古屋地裁岡崎支部の判決で、19歳の実の娘への準強制性交罪に問われた父親に対し、「娘の同意は存在せず、極めて受け入れがたい性的虐待に当たる」としつつも、「抵抗不能だったとはいえない」として無罪を言い渡しました。
どちらも理不尽な判決であることはいうまでもありませんが、「故意がない行為は罰しない」が刑法の原則で、法律を厳密に適用すれば「誤解」でも故意は否定され得ると専門家は指摘します。福岡地裁の判決は、「刑法の拡大解釈は自分たちには任が重いので、上級審で議論してくれ」ということなのでしょう。
名古屋地裁の判決は「同意がない性行為でも抵抗しなければ罪には問われない」としましたが、これは「抗拒不能」が準強制性交罪の要件になっているからだとされます。こちらも、刑法を厳密に解釈すればこうならざるを得ないのでしょう。
だとすれば当然「刑法を改正すべきだ」という話になりますが、このあたりから法律家の口は重くなります。「抗拒不能」の要件を撤廃し「同意なき性交は犯罪」とすれば女性の権利は守られるでしょうが、なにをもって「同意」と見なすかで混乱が起きるのは明らかだからです。
女性とベッドに入るたびに「性交同意書」に署名捺印してもらうというのは、いくらなんでも非現実的です。そうなると男性は、身を守るために、女性とのやりとりを録音したり、性交場面をこっそり録画しようとするでしょう。女性が「同意はなかった」と訴えたら、報復として動画をネット上に公開する……という事態もじゅうぶん考えられます。
しかしそれでも、世界の趨勢は性暴力にきびしく対処するよう求めており、日本もそれに追随せざるを得ないでしょう。「同意」がないと刑務所に放り込まれ、なにもかも失ってしまうかもしれないとなったら、男性はどうするのでしょうか。
もちろん未来のことはわかりませんが、ひとつだけ確かなのは、「かんぜんな同意のとれるセックス」への需要が高まることです。これは要するに「売買春」のことです。
「セックスワークでも性暴力は起きる」との反論があるでしょうが、従業員の安全は店(業者)の責任です。プライベートな性暴力では女性が一人で矢面に立たされることを考えれば、ビジネスの方がずっと守られています。
だとすれば、まずやるべきは「売春合法化」でしょう。性交をともなう風俗業も法の管理下に置き、従業員が安全にサービスを提供し、客がそれを楽しめるようにすれば、すくなくとも「同意」をめぐるやっかいな問題はなくなります。
もっともそうなると、さらに非婚化と少子化が進むことは避けられないでしょうが。
『週刊プレイボーイ』2019年5月20日発売号 禁・無断転載