女子受験生に不利な得点操作をしていたことが明らかになった東京医科大学につづいて、文部科学省の調査ですくなくとも6大学が「不適切な入試の疑いが高い」とされました。報道によれば、女性や浪人回数の多い受験生を不利に扱ったり、合格圏外の同窓生の子どもを入学させていたとされ、柴山昌彦文科相は「合理的な理由が必ずしも見てとれない」として大学側に説明責任を求めています。
第三者委員会の調査によれば、東京医大は2年間で55人もの女子受験生を一方的に不合格にしており、これはもちろん許されることではありません。とはいえ、メディアの論調を見ていると、いったいなにが問題なのかをちゃんと理解できていないようです。
今回の不正は、「すべての受験生を平等に扱っていないから」ではありません。私立学校には公序良俗に反しない範囲で生徒を選別する裁量が認められており、宗教系の学校が信者の子どもを優先的に入学させることは世界じゅうでごくふつうに行なわれています。なにもかも男女平等にしなければならないのなら、男子校や女子校は存在できません。
アメリカの大学が人種別に入学者を選別していることはよく知られています。
ハーバード大学が2013年に行なった学内調査では、学業成績だけならアジア系の割合は全入学者の43%になるが、他の評価を加えたことで19%まで下がったとされます。2009年の調査では、アジア系の学生がハーバードのような名門校に合格するには、2400点満点のSAT (大学進学適性試験)で白人より140点、ヒスパニックより270点、黒人より450点高い点数を取る必要があるとされました。
これはアジア系に対する人種差別そのもののように見えますが、あれほどPC(政治的正しさ)にうるさいアメリカでも大きな社会問題になっているわけではありません。それは大学側が、こうした得点調整は「奴隷制の負の遺産を解消するため」であり、「大学には人種的多様性(ダイバーシティ)が必要だ」と説明しており、それが一定の理解を得ているからでしょう。これが「合理的な理由」で、説明責任を果たしているなら、属性によって扱いを変えても「差別」とはみなされないのです(ただし、これを「逆差別」だとして訴訟を起こされています)。
このことからわかるように、不正なのは私立の医大が男子受験生を優遇したことではなく、その判断に正当な理由があることを説明できないからです。仮に日本の救急医療の現場で男性医師が足りないという実態があるとして、それを解消するために男子受験生に加点するのであれば、「合理的な理由」として認められたかもしれません。もっともその場合は、得点調整の事実をあらかじめ公表することが前提となります。それによって、自分が不利に扱われると知った女子受験生は、男女を平等に扱う他の医大を目指すことができます。
グローバルスタンダードのリベラリズムでは、「差別とは合理的に説明できないこと」と定義されます。文科相は就任早々、「(教育勅語を)道徳等に使うことができる」と発言して批判されましたが、皮肉なことに、なにが差別なのかを正しく理解していたのはこの文科相の方だったようです。
参考:「「ハーバード大、アジア系を排除」米司法省が意見書 少数優遇措置に波及も」朝日新聞9月1日
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