男性と女性のあいだの格差を測るジェンダーギャップ指数で、日本は世界111位から114位へと最低を更新しました。「基準がおかしい」との不満はあるでしょうが、日本は世界でもっともゆたかな国のひとつであるにもかかわらず、先進国ではダントツ最下位でインドや中国よりも下というのはいくらなんでも異常です。
なぜこんなヒドいことになるのでしょうか。
ジェンダーギャップ指数は、「教育」「医療」「経済(働き方)」「政治」の4分野で男女の格差を評価します。日本は「教育」と「医療」では北欧などと遜色ありませんが、「経済」と「政治」の2分野の評価が極端に低いことが惨憺たる結果につながっています。
「経済分野」では男性と女性の賃金格差が大きいことと、女性管理職の割合が少ないことが大きな問題です。日本では子どもを産んだ女性の離職率が高く、再就職しようとしてもパートや派遣など非正規の仕事にしか就けません。
「日本は学歴社会」と思われていますが、日本の会社では高卒の男性の7割が管理職になるのに対し、大卒女性はわずか2割です。こんな先進国は他になく、日本では学歴より性別が重視されています。これは「性差別」そのものですが、日本政府や企業・労働組合はこれまで必死になってこの不都合な事実を隠蔽してきました。
「政治」分野の成績が悪いのは、女性の政治家の数が極端に少ないからです。安倍政権は次々と女性を大臣に登用しては失敗していますが、これは女性が政治に向いていないからではなく、人材プールがあまりにも小さいからでしょう。それでも国会は女性の政治家がいるだけまだマシで、地方議会は「女性ゼロ」が2割もあるというさらにヒドいことになっています。
こうした現状を変える“即効薬”と期待されるのがクオータ(割り当て)制です。「議会の半数は女性にする」と問答無用で決めてしまえば、ジェンダーギャップ指数は劇的に改善するでしょう。
もちろんこれには、さまざまな批判が予想されます。「有権者が自由な投票で政治家を選ぶのだから、そこにジェンダーをもちこむのは逆差別だ」というのは一理あります。
仮にクオータ制を導入するなら、みんなを納得させる証拠がなければなりません。だったらそれを探してみようという実験がインドで行なわれました。
女性の地位の低さが深刻な問題になっている西ベンガル州で、ランダムに選んだ村に「議会の3分の1は女性でなければならない」「議長は女性でなければならない」というルールを課し、これまでと変わらない男性中心の村と比較しました。
その結果はというと、残念なことに、クオータ制でも男性の女性に対する偏見はまったく変化しませんでした。しかし同時に、興味深い発見もありました。女性の議長を体験した村では、ひとびとは女性が指導者として無能だとは思わなくなったのです。男性の有権者は女性の演説をあいかわらず低く評価しましたが、以前よりもずっと女性候補者に投票するようになりました。
これはもちろんインドの話で、日本にそのまま当てはまるとはいえません。しかし「男女格差で世界最底」のレッテルを払拭したいのなら、同じような実験をやってみてもいいかもしれません。
参考:エステル・デュフロ 『貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス』
『週刊プレイボーイ』2017年12月18日発売号 禁・無断転