4月23日に行なわれたフランス大統領選の第1回投票では、独立中道右派のエマニュエル・マクロンと、国民戦線(FN)党首マリーヌ・ルペンが決選投票に進むことになりました。この記事が掲載されるときにはすでに結果が出ていますが、現時点の世論調査ではマクロンがルペンを大きく引き離しています(世論調査のとおり大差でマクロンが勝ちました)。
各社の報道を見ていて気になるのは、いまだに国民戦線に「極右」のレッテルを貼るところが大多数なことです。極右(ultranationalism)は「国粋主義」のことですから、たんなる「自国ファースト」のナショナリズムではなく、自民族の優越性を前提とした人種主義(レイシズム)と見なされます。
国民戦線が「極右政党」なら、ルペンに投票した770万人(決選投票では1000万人)のフランス人は「人種差別主義者(レイシスト)」になってしまいます。もし大統領に当選すれば、フランス革命によって近代の画期をひらいた国は「極右国家」になりますが、それでほんとうにいいのでしょうか。
冷戦終焉後の1990年代にヨーロッパ各国で台頭した右翼は「ファシズムの再来」ではなく、グローバル化と福祉国家モデルの破綻がもたらす先進国社会の動揺から生まれた新しい現象でした。「反移民、反EU、反グローバリズム」を唱えるものの露骨な人種差別からは距離を置き、白人の優越性をことさらに主張するわけでもありません。彼らの世界観はハリウッド映画のような善と悪の対立ですが、ポスト産業資本主義=知識社会から脱落しつつある主流派中流層(善良なふつうのひとびと)は“被害者”で、その救済のために“古きよき時代”を破壊するイスラームの移民や“強欲”なグローバリストとたたかっているのです。そう考えれば、「ポピュリスト(民衆主義)」「伝統保守」「新右翼」などの呼称がより適切でしょう。
風刺雑誌『シャルリー・エブド』襲撃事件の後、日本の新聞社のインタビューに応じたマリーヌ・ルペンは、「(両親が外国人でもフランスで生まれた子どもは国籍を付与される)出生地主義の国籍法を改定し、二重国籍を廃止すべきだとしたうえで、「めざすは(どちらも実現している)日本のような制度」と明言しています。EU加入とユーロ導入で通貨主権を失ったことを嘆き、「日本はすばらしい。フランスが失った通貨政策も維持している。日本は愛国経済に基づいたモデルを示しています」とも述べています。
さらに、国民戦線の新世代を代表する政治家(仏北部エナンボモン副市長)は、「今は安倍晋三氏の自民党に近い政策の党だ」と自分たちを紹介します。移民や難民に門戸を閉じ、よそものに不寛容で、多文化主義からもっとも遠い日本は、国民戦線にとって理想の社会モデルなのです。
その国民戦線が「極右」だというのなら、彼らが憧れる日本は「極右国家」、自民党は「極右政党」、安倍首相は「レイシスト」で安倍政権は「極右政権」になります。「まさにそのとおり!」というひともいるかもしれませんが、確信犯でなくたんなる惰性でやっているのなら、「事実(ファクト)」を無視したレッテル貼りはいいかげん終わりにした方がいいでしょう。
参考:朝日新聞2015年1月27日 マリーヌ・ルペン「国民戦線」党首インタビュー(インタビュアー国末憲人)
『週刊プレイボーイ』2017年5月8日発売号 禁・無断転載