再生可能エネルギーを固定価格で国が買い取る制度(FIT)で混乱が続いている。電力会社が送電網の不足を理由に新規の受け入れを凍結し、事業者に不安が広がっているのだという。
問題が起きたのは太陽光発電で、買い取り価格が風力や地熱などと比べて高い。買い取り期間は10年で、「敷地を確保し太陽光パネルを安く仕入れれば確実に儲かる」といわれていた。なんといっても国が太鼓判を押しているのだから……。
企業だけでなく個人も億単位の資金を注ぎ込んだというから怒るのも無理はないが、その一方で「お上」の話を無条件で信じるのもどうかと思う。まともに考えれば、こんな制度が成り立つはずはないのだから。
福島第一原発事故を受けて、民主党政権は化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を掲げた。経産省は事業者を集めるため、当初の買い取り価格を高く設定して期待を煽った。
だが事業者から割高な電力を買わされる電力会社は、当然、その分だけ電気料金を引き上げる。現在はその額が標準的な家庭で年2700円だが、経産省が認可したすべての施設が稼動すると、1家庭あたりの負担は1万円を超えるという。こんな値上げは政治的に容認できないから、計画が破綻するは最初からわかっていたのだ。
太陽光や風力発電の割合を増やす方針も疑問だ。
太陽光発電のモデルケースとしてスペインが挙げられるが、地中海性気候は雨が少なく日照時間が長い。それに対してモンスーン気候の日本は、高温多湿なうえに雨季もあるため、発電効率はスペインの半分しかない。
風力発電はドイツやデンマークがモデルケースだが、北緯50~60度にある北海は強い偏西風が吹く。一方、日本列島はそれより南の20~45度に位置していて、風力発電に適した場所はほとんどない。
もともと日本は、太陽光や風力発電に向いていない。これは専門家の常識だが、政府や経産省は科学的な議論をいっさい無視して高額の買い取りに猪突猛進した。
それなら日本は、これからも化石燃料と原発に頼りつづけなくてはならないのだろうか。そんなことはない。火山の多い日本には、有望な再生可能エネルギーとして地熱発電がある。
だったらなぜ、国は地熱発電を推進しないのか。それは火山地帯が温泉観光地になっていて、地元の反対で発電所の新設が不可能だからだ。
こうして現実的な発電方式を放棄した結果、できもしない事業に多額の予算を注ぎ込むことになった。しかしそれでも、まだ方策はある。
発電が必要なのは電気が足りないからだ。そう考えれば、もっとも効率的な「発電」は節電以外にない。日本の電気使用量はデフレ不況でも増え続けており、専門家の試算では、それを80年代末のバブル期の水準に戻すだけで原発はいらなくなる。
こんな簡単なことが実現できないのはなぜだろう。それはもちろん、節電では誰も儲からないからだ。
参考文献:川島博之『電力危機をあおってはいけない』
橘玲の世界は損得勘定 Vol.46:『日経ヴェリタス』2014年11月16日号掲載
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