先日、仕事場に送られてきた投資雑誌をめくっていたら「株主優待VSふるさと納税」という特集が目に入ってびっくりした。株式投資と納税がなぜ比べられるのだろう?
ふるさと納税は2008年に始まった地方自治体への寄附金制度で、所得税・個人住民税の控除が受けられる。小泉政権下の三位一体改革で地方交付税の削減や税源移譲が進み、都市と地方の税収格差が問題になった。そこで当時の自民党政権が、日本に寄付文化を根づかせる効果も期待して創設したのだという。
こうして、生まれ故郷を離れ都会で暮らしているひともふるさとに貢献できるようになった――これだけなら素晴らしい話だが、だったらなぜマネー雑誌が利殖の手段として取り上げるのだろうか。それは、制度設計に理由がある。
ふるさと納税では出身地に限らずどの自治体に寄附してもいいが、全額控除には上限が設けられていて、総務省の試算では、年収600万円(専業主婦と子ども2人)のサラリーマンの場合2万7000円だ。ほとんどのひとはこの上限を超えて寄附しようとは思わないだろうから、パイの大きさは決まっていて、全国の自治体は納税先の指定をめぐって争うことになる。
もうひとつは、寄附金のうち、控除を受けられるのは2000円を超えた部分だということだ。
1万円を寄附したとすると、2000円が適用外となって、税金から控除されるのは8000円だ。ここからすぐにわかるように、ふるさと納税をすると税(控除されない2000円)と寄附金(1万円)の合計が1万2000円になって、結果として税コストが増えてしまう。ふるさと納税はあくまでも「寄附」であって、税と同じには扱えないのだ。
ところがそうなると、ふるさと納税をする経済的なインセンティブがなくなってしまう。そこで一部の自治体が、“払い過ぎた”税金を特産品などで“還付”することを始めた。これが話題になると、多額の税収を得る市区町村が出てきて、限られたパイをめぐる争いが激化した。
いまや全国の自治体が「納税のお礼」に趣向をこらしている。それをまとめたサイトを見ると、肉や魚介類、果物、米、温泉利用権やスキーチケットなどなんでもある。納税者は当然、「どうせ税金を払うならすこしでも得したい」と考えるだろう。こうして「株主優待と同じように納税でも得できる」という摩訶不思議な話になるのだ。
地方がふるさと納税に頼るのは、税収が減っているためだ。その理由は人口減や企業の撤退などいろいろあるだろうが、要するに地方に魅力がなくなってしまったからだ。だったら正攻法は、多くのひとが住みたい(企業が進出したい)と思う街づくりをすることだろう。
だがバブル崩壊以降の20年で、地方はその努力をあきらめてしまったようだ。それでも税収は必要だから、あとは特産品で納税者を勧誘するしかない――「ふるさと納税」という美名の陰には、少子高齢化を迎えた日本の、そんな寒々とした光景が広がっているのだ。
橘玲の世界は損得勘定 Vol.44:『日経ヴェリタス』2014年8月24日号掲載
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