第33回 うっとうしいネット広告 対処法(橘玲の世界は損得勘定)

 

インターネット広告が、たんなるテキストから大画面に“進化”している。それにともなって、薄毛や精力回復の広告がいやでも目につくようになった。

なんとかならないものかと調べてみると、広告会社は私(正確には私のパソコンのブラウザ)がどんなサイトや記事を閲覧したのかのデータを収集し、その属性に合った広告を表示しているらしい。私の場合、「中高年」「男性」というカテゴリーに入っているから、「60歳になっても妻を驚かすことができるなんて」という広告を毎日のように見る羽目になるのだ。

ネット業界では、ダイエットや薄毛など外見に関する広告を“コンプレックス系”と呼び、もっとも利益率が高いとされている。コンプレックスから逃れるためにはひとはいくらでもお金を払う、ということなのだろうが、どこかもの悲しくもある。それ以前に、中高年男性の全員が強壮剤の広告を必要としているわけではないだろう。

ビッグデータの活用が注目を集めている。ネットユーザーの閲覧履歴はビッグデータの代表で、広告会社がそれを使って“効果的”な広告を表示させることに異存があるわけではない。ここで述べているのは、それとは逆に、データの活用が不十分だという不満だ。

ネット書店は、過去の購入履歴などを元に読むべき本を教えてくれる。これはなかなか役に立つサービスで、書店からのお勧めがなければ気づかなかった面白い本とこれまで何冊も出会うことができた。それと同様の精度で、「こんな商品やサービスがあったのか」と驚くような広告が表示されるのなら、私としては大歓迎だ(異論があるひともいるだろうが)。

ところで、いつも出てくるうっとうしい広告をどうにかする方法はないのだろうか?

正攻法は、広告会社がブラウザから情報を読み取らないようにすることのようだ。顧客の属性がわからなくなれば、年齢や性別に関係なくさまざまな広告がランダムに表示される。

しかし私の場合、まったく別の方法でこの問題は解決してしまった。

あるとき、ネットでアルバイトの時給を調べたことがある。ファストフードや居酒屋などの労働条件が知りたかったからだが、その後、ブラウザにアルバイト情報やゲーム・アニメ、携帯など電子機器の広告が表示されるようになった。どうやら、最新の閲覧履歴を読み込んで私の属性が変わったらしい。現在の広告にはなんの不満もないので、そのままにしている。

ちなみに検索広告最大手のグーグルでは、不愉快な広告を個別にブロックできるようにしている。ただしこの方法では、また似たような広告が出てくるだけだ。

世の中には同じ不満を持つひとも多いらしく、ネット上には広告そのものを表示させなくするソフトも流通している。たしかに便利だが、これが広く使われるようなると広告会社は収益源を失い、「ネットの情報はタダ」という常識が覆されることになるかもしれない。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.33:『日経ヴェリタス』2013年7月14日号掲載
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