ZAi Onlineにチャールズ・マレーの『階級「断絶」社会アメリカ』について書いた。
「アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって 分断されている」
詳しくは上記の記事を読んでいただくとして、ここでは本の中で使われている図版をいくつか紹介してみたい。本書のいちばんの魅力は、膨大な社会調査の統計をグラフにすることでアメリカ社会の現実を“見える化”したことだからだ。
マレーは、アメリカの白人を認知能力(知能)で分類し、上位20%が住むベルモントと、下位30%が住むフィッシュタウンという架空の町を設定する。そしてこの2つの町で、「結婚、勤勉、正直、信仰」という“幸福の条件”がどのような異なるのかを比較した。
ここでは、「結婚」の項目を紹介する。まずは、1960年から2010年の半世紀の、ベルモント(知識層)とフィッシュタウン(労働者層)の既婚率(結婚して離婚していないひとたちの割合)の変化。
次は、同じく半世紀のベルモントとフィッシュタウンでの未婚率の変化。
最後は、ベルモントとフィッシュタウンの離婚率の変化だ。
この半世紀のあいだ、アメリカ白人の既婚率が下がり、未婚率と離婚率が上がってきた。このこと自体はよく知られているが、白人を知識層と労働者層に分けてみると、こうした傾向は労働者層(フィッシュタウン)できわめて顕著で、その一方で知識層(ベルモント)では家庭を築くひとの割合は1980年前後で下げ止まり、それ以降は大きな変化がないことがわかる。
このようにアメリカ社会を“知能”によって分類すると、2つの異なる「階級」の間でライフスタイルやコミュニティのあり方に大きな違いがあることが一目瞭然となる。こうした事情は「勤勉」「正直」「信仰」など他の要因でも同じで、それをわかりやすいグラフにして提示したことで本書はアメリカ社会(とくに知識層)に大きなインパクトを与えた。
だがこれは、「知能が高くないと幸福になれない」ということではない。
下図は、“幸福の4条件”が揃った場合の「幸福度」をベルモントとフィッシュタウンで比較したものだ。それぞれの要因ごとに差はあるものの、4つの条件を満たした場合の幸福度は知識層も労働者層も変わらない。エリートも高校中退も幸福の条件同じなのだ。
ところが実際に、ベルモントとフィッシュタウンで「(自分の人生は)とても幸せ」と思うかどうか尋ねてみると、下図のようなショッキングな結果になる。
いずれに町でも幸福度は下がっているが、ベルモントは1990年前後で下げ止まったのに対し、フィッシュタウンはほぼ一直線に下がり続け、2010年には「幸福」を感じるひとは住民の15%しかいない。
このことは、幸福の条件は同じでも、フィッシュタウンでは年ごとにその条件を満たすことが難しくなっていることを如実に示している。これが、マレーのいう「アメリカの分裂」だ。
なお『階級「断絶」社会アメリカ』には、アメリカ社会の現実を知るうえで重要なデータが他にもたくさん出てきます。興味のある方はぜひ読んでみてください。
参考URL:「アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって 分断されている」