総選挙雑感

すでにあちこちで書かれているだろうが、今回の選挙結果について感じたことをまとめておきたい。

民主党の大敗は、政権交代さえすればすべてが変わるという信念(というか妄想)のもとにパンとサーカスのマニュフェストをばらまいたツケだから仕方ないだろう。約束したパンもサーカスも与えられなければ、観客が怒り出すのは当然だ。

いまから振り返れば、最初の2人があまりにもヒドすぎた。パンとサーカスのひとたちが党を出て行ってからはすこしマシになったが、野田氏がなにをしても手遅れなのは明らかだった。

自民党の一方的な勝利は、小泉郵政選挙や前回の「政権交代」選挙と同じで、小選挙区制の制度的特徴だ。注目すべきは、今回の選挙で議会の構成が圧倒的な与党と複数の少数野党に変わったことだ。小選挙区制は制度上、二大政党制に誘導するよう設計されているから、これはきわめて不安定だ。

次の衆院選はおそらくは4年後で、自民党には党を割る理由はないから、二大政党制をつくるにはそれ以外の野党がひとつにまとまるほかはないが、これはきわめて難しいだろう。対抗政党が生まれなければ、小選挙区制の下でも自民党を中心とした一党支配が継続することになる。あるいは、今回の結果は有権者がそのような消去法での安定を望んだということなのかもしれない。

民主党に期待したいのは、数を目的とした中途半端な連携や共闘に走ることなく、逆風下の選挙に勝ち残ったメンバーを中心に、明確な理念を掲げつつもリアリズムに基づく、政権担当能力のある政党を育てていくことだ。それができれば、いずれまた機会はめぐってくるだろう。

私は、日本の抱える問題は構造的なもので、その多くは先進国に共通しており、政治のちからで劇的な成果を実現するのは不可能だと考えている(小さな改善を積み重ねて社会をよりよくしていくことなら政治にもできるだろう)。経済(デフレ対策)にしても、社会保障(年金と医療)にしても、安全保障(領土問題)にしても、政権が変わっても政策の選択肢はほとんどない。

自民党は、民主党の大失敗を見ているから、今回の選挙で「改革」を強調するようなことはなかったが、だからといって現状維持ができるわけもなく、早晩、既得権の配分をめぐる混乱が始まることになる。もっとも、今回の低投票率でわかるように、ひとびとはそのことを理解したうえで過剰な期待を抱くことをあきらめたのかもしれないが。

それでも安倍氏は、選挙戦でいくつかの“約束”をしている。そのひとつが「デフレ脱却」だ。

民主党が壊滅的な敗北を喫したのは、国民にあまりにも多くの“約束”をして、なにひとつ実現できなかったからだ。安倍氏はそれを目の当たりにしているから、どんなことをしてでも自らの数少ない“約束”を実現しようとするだろう。

もしそれができなければ、こんどは自分が「ウソつき」と批判されることになる。プライドの高い安倍氏にとって、これはとうてい耐えられないにちがいない。

私は、日銀が金融緩和すれば人工的にインフレにできるとは思わないが、周知のように、これについては経済学者のなかにも激しい議論の応酬がある。この不毛な罵り合いも、おそらくは安倍政権が終わらせることになるだろう。

もちろん、安倍氏のいうように、2%程度のマイルドなインフレと円安によって「強い経済」が戻ってくるのならこれほど素晴らしいことはない。だが私は生来懐疑的なので、その“約束”が失敗したときのことも考えおこうと思う。