男と女はなぜすれ違うのでしょうか? 文学から映画まで、あらゆる芸術はずっと愛の不毛をテーマにしてきましたが、あなたが恋人とわかりあえない理由を現代科学はすでに解明しています。しかも、たった一行で。
「異なる生殖戦略を持つ男女は“利害関係”が一致しない」
男と女の生殖機能はまったくちがっていて、子どもをつくるコスト(負担)も大きく異なります。
男の場合は精子の放出にほとんどコストがかかりませんから、より多くの子孫を残そうとすれば、できるだけ多くの女性とセックスする乱交(ハーレム)が進化の最適戦略になります。
それに対して女性は、受精から出産までに10カ月以上もかかり、無事に子どもが生まれてもさらに1年程度の授乳が必要になります。これはきわめて大きなコストなので、セックスの相手を慎重に選び、子育て期間も含めて長期的な関係をつくるのが進化の最適戦略です(セックスだけして捨てられたのでは、子どもといっしょに野垂れ死にしてしまいます)。
男性は、セックスすればするほど子孫を残す可能性が大きくなるのですから、その欲望に限界はありません。一方、女性は生涯に限られた数の子どもしか産めないのだから、セックスを「貴重品」としてできるだけ有効に使おうとします。ロマンチックラブ(純愛)とは、女性の「長期指向」が男性の乱交の欲望を抑制することなのです。
あなたはきっと、これをたんなる理屈だと馬鹿にするでしょう。しかし進化論による「愛の不毛」は、大規模な社会実験によって繰り返し証明されています。それは、世の中に同性愛者がいるからです。
同性愛者は愛情(欲望)の対象が異性ではなく、男性同士あるいは女性同士でパートナーをつくります。そこでは恋人同士の間に生殖戦略のちがいが存在しませんから、お互いの利害が一致した“純愛”が可能になるはずです。
よく知られているように、男性同性愛者(ゲイ)と女性同性愛者(レズビアン)の愛情やセックスのあり方は大きく異なっています。
ゲイはバーなどのハッテン場でパートナーを探し、サウナでの乱交を好みます。エイズが流行する前にサンフランシスコで行なわれた調査では、100人以上のセックスパートナーを経験したとこたえたゲイは全体の75パーセントで、そのうち1000人以上との回答が4割ちかくありました。彼らは特定の相手と長期の関係を維持せず、子どもを育てることにもほとんど関心を持ちません。
それに対してレズビアンのカップルはパートナーとの関係を大切にし、養子や人工授精で子どもを得て家庭を営むことも珍しくありません。レズビアンの家庭は、両親がともに女性だということを除けば(異性愛者の)一般家庭と変わらず、子どもたちはごくふつうに育っていきます。
ゲイとレズビアンのカップルは、なぜこれほどまでに生き方がちがうのでしょうか。進化論だけが、この問いに明快なこたえを与えることができます。
ゲイの乱交とレズビアンの“一婦一婦”制は、男性と女性の進化論的な戦略のちがいが純化した結果なのです。
後記:ハリウッド映画『キッズ・オールライト』は、レズビアンの“家族”を描いた秀作です。また本稿は、『(日本人)』の内容の一部をコラム用にピックアップしたものです。
参考文献:スティーブン・ピンカー『心の仕組み』
『週刊プレイボーイ』2012年5月21日発売号
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