「首相が変われば日本はよくなる」という幻想 週刊プレイボーイ連載(1)

野球でもサッカーでも、チームが負けてばかりいるとファンやサポーターは「監督を辞めさせろ」と騒ぎ出します。「負けたのは選手が悪いからじゃない。監督が代わればチームは生まれ変わるはずだ」というのが、世界共通のファン心理だからでしょう。サポーターなら誰でも選手を愛してやまないし、かといって敗戦の責任は誰かがとらなくてはなりません。だとしたら、生贄に捧げるのは監督しかいない、ということになります。

多くのひとが誤解していますが、古代社会の王は絶対権力者として民衆の上に君臨していたのではありません。古代の王は神との交渉係で、ひとびとは王がその仕事をうまくやっているかぎりにおいて崇め奉ったのです。そのかわり日照りや長雨など悪いことがつづくと、神を怒らせたとして、民衆はさっさと王の首をはねて生贄にしてしまいました。

東日本大震災の後、菅首相への批判はとどまるところを知りません。「能力がない」「逆切れする」というのはまだマシなほうで、「ひととして間違っている」「こころを病んでいる」など人格を全否定するようなものも目立ちます。当然のことながら支持率も低迷していて、震災後も20%前後をうろうろしています。評判の悪かったブッシュ前大統領ですら9・11同時多発テロの直後は支持率90%に達したことを思えば、この不人気は驚異的です。

あらかじめ断わっておきますが、私はこの驚くべき人望のなさを擁護するつもりはありません。とはいえ、「菅以外なら誰でもいい」という倒閣運動は、「後任はサルだっていい」と怒り狂うサポーターとまったく同じだということは指摘しておく必要があります。

日本では総理大臣が毎年のように代わりますが、これはバブル崩壊以降、20年にわたって日本経済がずっと不況だったからです。これにはさまざまな理由があり、みんなそのことはなんとなくわかっているのですが、現実に悪いことが起きている以上、誰かが責任をとらなくてはなりません。このようにして次々と首をはねた結果、この国はいつのまにか“元総理大臣”だらけなってしまいました。

冷静になって考えてみると、私たちはこの20年間、「首相が辞めれば政治はよくなる」「政権交代すれば日本は変わる」とずっと聞かされつづけてきました。格差社会の元凶は“市場原理主義”の小泉政権で、年金制度が崩壊したのは安倍内閣の責任で、“宇宙人”鳩山は平成の脱税王だ……。もちろんこうした批判には、それぞれ真っ当な理由があるのでしょう。ただ、代わるたびにどんどんヒドくなっているような気がするのは、私だけでしょうか。

「首相劣化の法則」にしたがって、菅首相は見事、「最低」記録を更新してしまったようです。次の国政選挙では大敗北は必至でしょうから、よってたかって政権の座から引きずりおろされそうなのも自業自得というものです。

でも次は、いったいどんなキャラが来るのでしょうか。今の総理大臣よりもっとヒドい政治家はいくらでもいそうなのに、誰も不安にならないのでしょうか。

内閣総理大臣殿。

ダメなのは、あなたでしょうか、

いいえ、だれでも。

『週刊プレイボーイ』2011年5月23日発売号
禁・無断転載

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『週刊プレイボーイ』のリニューアルに合わせて、「そ、そうだったのか!? 真実(ほんとう)のニッポン」という連載を始めることになりました。

連載のタイトルは説明は不要ですね(^^)。“本家”には遠く及びませんが、時事的な話題について思いついたことを書いていくつもりです。

編集部の許可を得て、発売日の翌週以降にブログにアップしていきます。